わたしはここに告白いたします。
父と娘のあいだの愛の哀しさを、どうしても告白せずにはいられないのです。
ここにおいでの殆どの方々が、おぞましさを感じられることでしょう。
が、わたしにしてみれば恐ろしいことながらも、快楽でした。
無上の歓びと申しましても過言ではありますまい。
わたしは十有余年の間というもの、告白の機会をうかがいつつ、
今日まで口をつぐんできたのでございます、はい。
娘の命日であるきょうののこの日に、お集まりの皆さまがたに是非ともお聞きいただきたいと思いまして。
わたしと致しましては、このことを決して罪悪だとは思っていないのでございます。
が、この一週間というもの、いやなそしておぞましい夢を、毎晩のように見つづけたのでございます。
その夢というのが、なんとも身の毛もよだつものでございまして。
ゆめ━それは地獄の夢なのでございます。
あなた方は、閻魔大王の存在を信じておられますでしょうか?
いやいや、地獄そのものの存在を信じていらっしゃる方は、少ないことでございましょう。
かくいうわたしと致しましても、信じられませんし、信じたくもないのでございます。
このような恐ろしいものがあってなるものかと、思うのでございます。
どうもお待たせいたしました。
前置きはこのくらいに致しまして、その夢についてお話しましょう。
と申しましてもなにしろ夢のことでございます、突飛な事柄もございます。
荒唐無稽と思われるかもしれません。
また、わたしの感じた恐怖感を十分にお伝えできないかもしれません。
しかしどうぞ、お汲み取りいただきたいのでございます。?
針のような鼻毛をぬきながら、しゃれこうべの積みあげられた椅子に閻魔大王が腰をかけているのでございます。
そしてその横には、勿論赤鬼・青鬼とが立っております。
なにしろうす暗い洞窟の中のことでございます。
ろうそくが一本だけなのでございます。
が、そのろうそくにしましても目がなれてくるに従いまして、……いかにも赤いのでございます。
そして、燭台のいろが黒みがかった紺色に見えてくるのでございます。
さらに目をこらしますと、あろうことか、そのしょくだいが蛇になっているのでございます。
そして、炎が、真っ赤なほのおだと思っていたものが、じつは蛇の舌だったのでございます。
わたしはたまらず、天井に目をうつしました。
と、コウモリとも猿とも似つかぬ獣が口を真っ赤にぬらし、鉄砲のような形をしたタカサゴユリのような純白色の牙をのぞかせているのでございます。
そしてその獣の目といえば、爛々とかがやきいまにも飛びかかってきそうにも思えるのでございます。
背には赤黒い羽根をたたみ、おなじく赤黒い尾を、岩のさけめに突っこんでいるのでございます。
一匹ではございません。数しれなくでございます。
うす暗いはずの洞窟で、それほどにくわしく見えるはずがないと、おっしゃられますか?
……と申されましても、たしかに見えた-いえ感じたのでございます。
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