昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~](十五)煩悶

2023-06-10 08:00:19 | 物語り

 長いながい、少年の煩悶がつづいた。
“どうして……なぜ……どうする……どうやって……どうして……なぜ……”
悲しいことに、なにをどうはんもんしているのか、少年にはわかっていない。
ことばだけが堂々めぐりしている。
少年の視線のさきにいる女は、食いいるようにバンドを見つめている。

“ほら、ほら、待ってるんだぞ。
ほら、ほら、待ってるんだぞ”
煩悶が、いつしか逡巡にかわっていた。
靴のかかとが、コトコトと音をたてている。
よしっ! と、にぎりしめた拳も、すぐに力がぬける。
気を取りなおしての力も、かかとが床につくと同時にゆるんでしまう。

 バンドが交代している。
身をのりださんばかりだった女が、ストローを口にはこんだ。
もうひとりの女と、にこやかに談笑している。
ときおりケタケタと大声での笑い声がきこえてくる。
“下品なおんなだ。あのひととは不つりあいだ”
少年の毒矢が、もうひとりの女に飛ばされた。

バンドのボーカルが、マイクスタンドを蹴っては、がなりたてている。
素っとん狂な声をはりあげている。
シャウト! と、なんども叫んでいる。
ホールで踊りにきょうじる若者も、ボーカルに合わせて、シャウト! と叫んでいる。
ボーカルに合わせるように、拳をふりあげている。



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