(三)滑稽だった
意固地なまでに、かたくなな表情でとおり過ぎる。
それはいかにも滑稽だった。
少年をお子ちゃまとよぶ級友たちに見られたならば、
「お子ちゃま、お子ちゃま」
と、また囃したてられるだろう。
よっぱらいが少年をからかいつつ、すれ違っていく。
「おにいさん、こんやはだれをなかせるつもりだい?」
しかし少年はそれを、遊び人とみられている証拠だとほくそえむ。
少年の足が、おお通りからうら通りへと向く。
細長いビルがたちならび、バーやらスナックやらの看板が目に入る。
そしてその中のひとつのビルで止まった。
濃茶のガラス戸で、取っ手がにぶい銀色に光っている。
そしてアクセント的に右の上部に、小さくかがみのように反射する銀文字で[パブ・深海魚]とある。
少年の心が、期待に大きくふくらむ。少年の手がドアをおす。
そこは、光と音が調和よく構成された世界への入り口だ。
まず赤いふちどりがされた漆黒のビロード地のまくが、少年を迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
慇懃に礼をしながら黒服の男が声をかけてきた。
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