昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十一) ピシャリと言い放つ小夜子だ

2014-07-06 11:50:51 | 小説
(八)

「社、社長に連絡してきます。こんな所に居てはだめですから、すぐに帰りましょう」
慌てて立ち上がる竹田だが、当の小夜子は悠然としている。

「竹田。そんなに慌てることはないわ。明日調べていただいてからでいいの! 
もし違っていたら、どうするの。がっかりさせることになるでしょ。

それに、竹田が報告すべきことでもないでしょ。
あたしの口から、武蔵には話します。余計なことはしないで」
と、ピシャリと言い放つ小夜子だ。

そしてそんな小夜子を、梅子が慈愛に満ちた目で見つめる。
“うんうん、いつもの小夜子に戻ったね”

三十路も半ばを過ぎた梅子、小夜子には独りが淋しくはないと言い切った。
確かに淋しさは感じていない。孤独感とは無縁の梅子ではある。

しかし将来のことを考えたとき、言い知れぬ不安を覚えている。
これといってはっきりとした不安ではない。

ただ漠然とした不安感に襲われるのだ。
“なにを弱気になってるんだ! 天下の梅子さんだぞ。女傑と言われる梅子さんだろうが”

不安に襲われるたびに、自らにそう言い聞かせている。
しかし時として
“あの男の求婚を受けていたら、あたしの人生はどう変わったろうね”
と、考えることが増えてはきた。


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