(七)ネンネ
女が、目を落として言った。
「こんや、あたいヒマなんだ。つきあってもいいよ」
その声には、どことなく暖かいひびきが感じられる。
いつもの投げやりなことば言葉ではなかった。
そしてそう呟いた時の女の目は、一瞬間ではあったが恥じらいに輝いていた。
が、少年の口からは、何も返らなかった。頬を赤らめ、空のコップを見つめているだけだ。
女がそっと、指をからませた。
そして、胸元に引きよせようとしたとき、蜂のひと刺しにも似たいたみを頬にかんじた。
そしてその痛みに気付いたときには、少年はカウンターの席をたっていた。
女には頬のいたみよりも、もの言わざる少年の目の光りのほうが、強くこたえた。
「わざわざ女からさそってやったのに! なにさまのつもりよ!」
「まだネンネの男の子なんだよ、かんべんしてやんな」
バーテンの差しだした水を一気に飲みほすと、女は、また踊りの中に身をとうじた。
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