昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十) 見栄が芽生えた

2013-11-05 21:12:36 | 時事問題
(二)

「いや、ちょっとね。この雨にね……」
「それは、お困りですね。
お仕事ででも、いらっしゃいましたのですか?」

やけに馴れ馴れしく、くどくどと話し掛ける女だと怪訝に思いつつも、
醸し出される鉄火肌に少しばかり心を動かされる武蔵だ。

小夜子を残しての一人住まいがまだ三日だと言うのに、
女っ気がなくなった武蔵の心にざわめくものが出てきた。

「はい、ビジネスですわ。
こちらでの名産品をね、東京で売ってみようかと考えましてね。
当てがあるわけでもないのですが、取りあえず飛び出してきました」

一々用向きまで話す必要などないのだが、女に興味を覚えた武蔵。
わざわざに、東京でなどと付け加えた。

女に対する見栄が芽生えている。
更には、当てもなくなどと誘い水まで用意して。

“さあ、どうだい? 食いついて来いよ。
♪こっちのみーずは、あーまいよ♪ってな”

「左様ですの、それはそれは。
では、今夜のお宿、まだお決めになられてないのですね。
宜しかったら、ご案内いたしますが。

まずはひと休みなされて、それからごゆっくりとお探しになられましては如何です? 
申しおくれました。わたくし、この水沢で高野屋旅館の女将で、ぬいと申します」


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