三本のラムネが、ポンポンポンと、音を上げます。
シュワーっと、勢いよく泡が吹きでてまいります。
ほのかな甘いかおりが鼻先をくすぐります。
お店の仕事場にあふれている、あのあまい匂いとはまったくちがったものです。
青春まっただ中の乙女たちの、あふれ出る汗のにおいでございました。
さっそくにものどに味合わせてやりたいのでございますが、淑女にはそのような、店先でのラッパ飲みなどできるはずもございません。
三人同時にかけだして、角をまがったさきの神社にとびこみました。
拝殿のかいだんに腰をかけて、三人が一斉に、せーの! と声を上げてラムネのラッパ飲みでございます。
勢いよく流しこんだがためにのどをはげしい痛みがおそい、むせてしまいました。
でも、その刺激がまたうれしくて、再度ながし込みました。
炭酸がのどを通るたびに、ピリリピリリと針で刺されたかのように痛みがでます。
「クセになりそう!」
一子さんの声に、わたくしも貴子さんも、大きくかぶりをふって納得です。
そして大きく笑いながら、残りすくなくなったびんを愛おしく見つめたものです。
「一子さん! あしたもお願いよ!」と貴子さんがおねだりします。
「なんてあつかましいことを」と一子さんが応じて、また大笑いでした。
そしてわたくしが、
「ねえ。うしろのお賽銭箱には、……」と、のぞき込むまねをしました。
と、とつぜにどこからか
「喝! 罰当たりめが」という声が。
それが足立三郎さま、一子さんのお兄さまだったのです。
拝殿のふちに立たれて、腕組みをされていました。
白いワイシャツを二の腕までたくし上げて、まあたらしい帝大の角帽をかぶっていらっしゃいます。
思わず
「ごめんなさい、ごめんなさい」とただひたすらに、頭を下げるだけです。
角棒が目にはいらずに、神社の関係者のかただと思ったのです。
ところが、一子さんがきゅうに「ククク」と笑いはじめたのです。
「小夜子さん。大丈夫です。あたくしの兄ですから。でもどうして、こんなところに?」
「ああ。ちょっと休憩だよ。すぐそこの小屋でレクチュアをしていてね。解説していたところなんだ」
すこし自慢げにおっしゃいます。
どうやら神社の裏手にちいさな小屋があるらしいのです。
「どんなお方たちでしょう?」。「児童たちなの?」。「学問を教えてらっしゃるのですか?」。
三人が口々にたずねます。三郎さまは、ハハハとお笑いになり、
「なあに、仲間です。あなたたちには理解できないことですよ」と、侮蔑のことばを吐かれました。
わたくし、腹立ちまぎれに、瓶に残っておりましたラムネをシャカシャカとふってから、三郎さまに向けたのです。
みごと命中です。
ズボンにシャツまでびっしょりでした。
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