「聞いたことがない話だ」。「この地でははじめて聞いた」。
そんなことばが飛びかいます。
そりゃそうでしょ。この話は、いま思いついた、わたしの創り物ですから。
そんな怒らないでくださいな。
はじめに申し上げたでしょ? わたし、嘘吐きだって。
まだお怒りですか?
なんだか旅行記みたいな風になっていたので、あくまで物語りなんですよと、いうことなんです。
はいはい、お怒りがやわらいだところで。
帰りはバスにしました。
テクシーはもうイヤですし、タクシーはお金がかかりますしね。
だいいち、目の前にバス停があるのですから。
ちょっと休憩しながら待ちますよ。
待ち時間は、15分ぐらいでしょうか。
ところが、時間になってもなかなか来ません。
電車は正確ですが、バスとなると交通事情が違いますからやむを得ませんかね。
ああ、竜巻地獄のことをお話ししていませんね。
今のうちにちょこっとばかし、行きましょうか。
どんな地獄なんだと、正直わくわく感でいっぱいです。
空気が渦をまいて巻き上がる、これが竜巻なんでしようけれど、吹き上がっているんだろうなとは思っていたんです。
でも、時間割みたいなのがありまして、「少しお待ちください」という立て看板が入り口まえにおいてあります。
土産品がずらりと並んでいましてね、その間にお買い求めください、と。
いやな予感がします。
結論からいうと、間欠泉でした。
あちこちに存在しているんですがね、ここの間欠泉は特異なものだということなんですね。
休止時間が30分程度とみじかいこと、そして噴出時間がながいということがです。
さらには高さが30mほど噴き上がるとか、危険防止のために屋根を付けましたと説明書きがあります。
安全だいいち、ですか。
たしかにねえ、安全には気をつけねばになりませんがねえ、自然の豪快さがねえ、消えちゃうんですよねえ。
どうにも最近は、安心安全ということばが大流行りですね。
最たるもののひとつが、いやふたつか。
公園なんかの遊具の撤去問題やら、運動会やらでの騎馬戦に器械体操の中止とか。
子どもたちの体力低下が原因ですかねえ。
バスの時間を考えると、ここはパス?
……、いやいや、バスをパスしてはいりましょう。
最後の地獄なわけですから。
チェーンが、いま、目の前ではずされました。
これでは入らざるをえませんわ。
屋根付きの観覧席が用意されています。
後ろに行くほど段がついていましたが、当然にわたしは最前列です。
何人かがさらに入ってこられたようですが、総数はわかりません。
いちいち確認のために後ろをふりかえるなど、そんなゲスな趣味はありませんから。
5分? ぐらいですか、突然に、なんの予告の声も説明もなく、湯が吹きあがりました。
じっさいに30mの高さまであがるのかどうか、洞窟のように2mほどの高さでしょうか岩でかこわれていますからわかりません。
しかしこちらに湯がはね返ってくるところをみると、相当な高さにあがるのは間違いのないところでしょう。
――・――・――
(二十八)の2
ああ、来ました、来ました! と、わたしの後ろに20人ぐらいでしょうか。
みなさん、行儀よく(外国人もふくめて)並んでいます。
まあ、道路際ですしねえ、危ないですから。
結構な数の車が行きかっていましたし。
小さなトンネルを抜けて、そうそう来るときもここをくぐりましたよ。
自然のいわをくりぬいたようなトンネルです。
天井を補強してあるのかどうか、来るときに確認する元気もなく、見ていません。
いまもあっという間で、わかりませんでした。
なんてこったい! 小1時間近くかかって歩いてきたというのに、バスだとわずかに10分かい。
流れゆく景色の味気ないことといったら、立ち上る湯煙なんか、すぐに視界から消えちゃいます。
きつかったけれども、やっぱり歩いて正解でしたね。
そう思うのは、アナログ人間だからですか。
歩いたといえば、半世紀ほど前のことです。20代前半でした。
柳ヶ瀬という歓楽街からアパートまでを、タクシーを追い求めて、てくてくとテクシーです。
酔っ払ってのことでしたから、おそらくは小1時間は歩いたと思います。
午前零時をまわってのご帰還ですが、タクシーが捕まりません。
とにかく人人人でして、大通りはもちろんのこと柳ヶ瀬地区からすこし離れた四方の一角にも人がたむろしていました。
かくいうわたしも、戻ってくるタクシーをはやく捕まえようと歩いたんです。
ときおり戻ってくるタクシーに出逢いますが、そこはプロですね。
離れた場所にいる我々は相手にしません。
やはり行儀よく待っている中心部のお客のもとへと走って行きます。
酔っ払っているわたしにはそんなことに思いが及びません。
ただただタクシーを探して歩きます。
で、気が付いたら相当な距離で離れているわけでした。
ネオンサインははるか遠くで、街灯すらもまばらです。
灯りといえば、空に浮かぶお月さまだけです。
ときおり過る厚い雲なんかでさえぎられると、真っ暗になることもありました。
でも、なんとかたどり着けるもんですね。
ああ、あなたにも経験があります? ですよねえ。
案外のところ「おれ、どこに居るんや」なんて口走ったりしていたかもしれませんね。
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