「小百合さん。ありがとう、ありがとう。あなたはやっぱり、心のきれいなひとだ」
キッチンで泣きつづける小百合を抱きよせて、耳元でささやいた。
と、とつぜんに小百合の体が、小刻みにふるえはじめた。
「どうした?」
あわてて小百合から離れると、うつむいた小百合をのぞき込んだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
体をふるえさせながらも、ただあやまる小百合だった。
“なんだよ、これって。なんで、ふるえるんだよ。寒い? っていうか、こわがってる? 俺を。
どうしてだよ。かんぺきだろう、いままで。
うーん、こんなことって、聞いてないぞ。ど、どうすりゃ、いいんだよ”
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訳のわかんない状態になっちまったら、突拍子もない事態になっちまったら、なんでもいいから抱きしめてろ。
いいんだよ。相手がいやがろうがなにしようが。
ダメなときはなにをやってもだめなんだ。それでうまくいきゃ、もうけもんだ。
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“しまった! そうだった。離れちゃだめなんだ。
といって、今さら抱くのも変だろうし。
弱ったなあ、こいつは。仕方ないか、なるようになれ、ってか”
ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻した小百合は、
「ごめんなさいね、驚いたでしょう。一樹さんがね、恐くてふるえたんじゃないのよ。
あまり優しいから、嬉しくて……。変よね、嬉しくてふるえるなんて」
「びっくりした、マジで」。小百合の肩に手をおいて、再度抱きしめようとした。
「そうだ。パンフレット、見せてもらえます? 健康関連のグッズを販売してみえるんですね?」
満面に笑みをたたえて、一樹を座らせると、そのとなりに小百合が座った。
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落ちた! と思ってからが、勝負だぞ。最期のツメを誤ると、オジャンだからな。
そうだな、一樹の場合は…若いから…これでいくか。
いいか、純情さを売りにしろ。いいか、間違っても、昔のやんちゃはだすな。
俺とつれ立って悪さをしてたころのことは、いっさい忘れろ。
それでだ、女の扱いが下手だから長続きしないって、な。
だから、色々教えてください、って。テクは、使うなよ。
まぁ、一樹の場合は、テクらしいテクはないからなあ。
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落ちた! よーし、よーし。ここからが、ショーブだぞ。あせるなよ、あせるな”
「うーん、どうしょっかなあ。小百合さんには、すすめたくないなあ」
「ええっ! あたしには、売れないような物なんですか? そんなに高価な物なんですか?」
意外な一樹のためらいに、小百合は動揺した。
「あたし、貯金してますから。大丈夫です、高価な物でも大丈夫ですから」
必死だった。これでは、何のためにアパートにまで連れて来たのか、わからない。
焦った小百合は一樹の腕をつかんで、懇願した。
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