9日(火)。昨夕、サントリーホールで水戸室内管弦楽団の東京公演を聴きました プログラムは①細川俊夫「室内オーケストラのための”開花Ⅱ”」(日本初演)、②ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番ハ短調」、③シューベルト「交響曲第8番ハ長調”グレイト」で、指揮は準・メルクル、②のピアノ独奏は小菅優です
水戸室内管弦楽団は1990年、水戸芸術館の専属楽団として、初代館長・吉田秀和の提唱により誕生、今年4月から小澤征爾が音楽総監督を務めています オーケストラのメンバーはソリストやオーケストラの首席奏者として国内外で活躍を続ける28人の音楽家と5人の外国人音楽家です
サントリーホールのロビーに入ると、左サイドの一角に人だかりが出来ています。よく見ると、今年5月28日に白血病で亡くなったヴァイオリニスト潮田益子さんの遺影が白い花に囲まれていました 入口で渡されたプログラムには「お知らせ」が挟まれていて次のように書かれていました
「本プログラムに先立ちまして、水戸室内管弦楽団のヴァイオリン奏者をながく務めてくださいました潮田益子さんの死を悼み、下記の曲を演奏いたします。
※ モーツアルト:ディヴェルティメント ニ長調K.136より第2楽章 ※
潮田益子さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。 水戸室内管弦楽団」
自席は1階19列40番、最右端に近い席です。会場はP席を除き9割方埋まっている感じです 最初にモーツアルトを演奏する旨のアナウンスがあり、会場の照明が落とされました。暗い中、指揮者と楽員が登場し各自の席に着きます。照明が点き、モーツアルトのディヴェルティメントが静かに始まります
コンマスは潮田さんと交友関係があった安芸晶子さんが務めます。指揮台はなく、指揮者はタクトを持たず両手で指揮をしています
その後ろ姿を見て「準・メルクルも随分頭が白くなって背丈も縮んでしまったなぁ
」と思いましたが、どうも人が違うようです
穏やかに流れる弦楽器による音楽に耳を傾けながら、えっ、まさか
と思いました。そこで指揮を執っていたのは、癌による闘病生活で長い間公開演奏から遠ざかっていた小澤征爾に他なりませんでした
曲はピアノとピアニッシモの間を行き来し、静かに曲を閉じました 再び照明が落ちましたが、指揮者とオケは暗闇の中、しばらくそのままの姿勢を崩しませんでした。潮田さんを悼んでいたのでしょう
私は、こんなにも美しく哀しいモーツアルトを聴いたことがありません
幸いにも、闘病生活から抜け出し、少しずつ指揮活動に復帰しつつある世界のozawaは、しっかりとした指揮振りでモーツアルトに対峙していました。かつての楽友・潮田さんを追悼するために、この1曲だけを指揮するために会場に駆け付けたのです
暗い中、指揮者とオケが舞台袖に引き上げ、再度オケのメンバーが拍手に迎えられて登場します 正規のプログラム1曲目、細川俊夫の「室内オーケストラのための”開花Ⅱ”は、蓮の花が開花する時のエネルギーを音楽で表現したものですが、冒頭はほとんど聴こえない弦楽器の音から始まります
しだいに花の開花に向けてエネルギーが爆発しますが、再び静けさの中で曲を閉じます。聴いていて”仏教”という言葉を思い浮かべました
演奏終了後、作曲者の細川氏が会場から舞台に呼ばれ、拍手を受けていました
ピアノがセンターに運ばれ、ソリストの小菅優が準・メルクルとともに登場します。メルクルのタクトが振り下ろされベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」の第1楽章が始まります メルクルの指揮はキビキビしています。オケは人数が少ないのに底力があります
一人一人の実力が相当高いレベルにある証拠です。そこへ、小菅優のパワフルなピアノが入ってきます
この人の大きな魅力の一つはそのパワーです。第1楽章終盤のカデンツァの息を呑むような素晴らしさ
しかし、それにとどまらず、第2楽章の抒情的な歌い回しにも魅力があります。そしてフィナーレの輝き
何度も舞台に呼び戻されて拍手に応えていました
休憩後のシューベルト「交響曲第8番ハ長調”グレイト”」は最近、番号が定着したようです プログラムの解説によると、最近の研究の結果、これまで第8番とされてきた未完成交響曲が第7番に、これまで第9番と呼ばれていた”グレイト”が第8番になったとのことです
コンマスは新日本フィルの豊嶋泰嗣に代わり、メルクルの合図でホルンが高らかに響き渡ります メルクルはこの曲でもキビキビした指揮振りで、快適なテンポで曲を進めます
かつて巨匠と言われた大指揮者たちの悠然としたテンポとは対極にあるスピード感のあるテンポです
演奏者を見ていると、この快速テンポを楽しんで演奏しているように見えます。第4楽章の、弦楽器が執拗に繰り返すフレーズは100人のオケが弾いているのではないかと思うほどの迫力で会場一杯に響き渡ります
これが、水戸室内管弦楽団の底力です。それは凄い演奏でした
それにしても、相当速いテンポでの演奏だったにもかかわらず、やはりシューベルトの”グレイト”は長かった この曲はやはり長さにおいて”グレイト”です