30日(火)。昨夕、サントリーホールでチョン・ミュンフン指揮アジア・フィルのコンサートを聴きました プログラムは①ワーグナー「歌劇:タンホイザー序曲」、②同「楽劇:トリスタンとイゾルデ~前奏曲と”愛の死”」、③ブラームス「交響曲第4番ホ短調」です
自席は1階10列15番、左の島の右通路側です。会場はほぼ満席 拍手で迎えられたオケの面々を見渡すと、ソウル・フィルが圧倒的に多かった昨年のメンバーとかなり違っているような気がします
念のためプログラムに掲載のメンバー一覧表を見ると、総勢90人強のうちソウル・フィルのメンバーが3割強、東京フィルを中心とする日本のオケのメンバーが3割強、ドレスデン・スターツ・カペレを中心とする欧米のオケのメンバーが3割弱と、ほぼ3等分の構成になっています
この絶妙なバランスには、指揮者チョン・ミュンフンがドレスデン・スターツ・カペレの首席客演指揮者であり、東京フィルともN響とも関係があり、ソウル・フィルとアジア・フィルの芸術監督を兼ねていることが背景にあるといえるでしょう
韓国と日本のメンバーを合わせれば6割強なので、名前の通りアジア・フィルと呼べるかもしれませんが、一歩、インターナショナルに近づいた感じがします
オケは向かって左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという態勢を採ります 第2ヴァイオリンの首席席にはN響の第1ヴァイオリンのコンマス山口裕之と東京フィルの第2ヴァイオリン首席の戸上真里が、ヴィオラの首席席には東京フィルの首席・須田祥子の姿が見えます
よく見るとオーボエはボストン管弦楽団の副主席奏者・若尾圭介の姿があります
それより何より驚いたのは、コンサートマスターとして登場したのがベルリン・フィルのコンマス樫本大進だったことです
上に載せたチラシには彼の名前はありませんでした。これはグレイト・サプライズです
会場一杯の拍手 に迎えられてチョン・ミュンフンが登場します。1曲目のワーグナーの歌劇「タンホイザー」序曲がゆったりとしたホルンの調べで始まります
次いで豊かなチェロが続きます。聴いていると次第に気分が高揚してくる不思議な曲です
次いで同じくワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と”愛の死”」がチェロの弱音で始まります 物語のとおり官能的な音楽が展開します。演奏者、とくに弦楽奏者を見ていると、一人一人が曲にのめり込んで懸命に曲と対峙している様子が分かります
ワーグナーを2曲取り上げたのは、おそらく今年がワーグナー生誕200年のメモリアル・イヤーだからでしょう
われわれが待っていたのは休憩後のブラームス「交響曲第4番ホ短調」です 第1楽章の冒頭はヴァイオリンのアウフタクトで始まりますが、樫本コンマスは思い入れたっぷりに引きずりました
第2ヴァイオリンの戸上真里が彼を見てニヤッとして「やってくれたわね
」という表情を見せました。チョン・ミュンフンは深く音楽を掘り下げ、たっぷりと歌わせます。第1楽章フィナーレは怒涛のごとく突っ走ります
第2楽章はホルンと木管によって開始されます。弦楽器がフォルテで演奏される時、空気が震えるのが見えるように感じました
第3楽章はスケルツォに相当する楽章です。冒頭からチョンは力強い指揮振りで勇壮に豪快に音楽を進めます。相当速いテンポです
第4楽章はたっぷり歌わせます。コンマスの樫本は身体全体を使ってオケを引っ張ります ブラームスの魅力は重厚なサウンドですが、今まさに目の前で展開している音楽がそれだ、と自覚できます
渾身のブラームス、フィナーレは圧倒的な迫力で曲を閉じました
チョン・ミュンフンは何度も舞台に呼び戻され、管楽器をフルートから順番に立たせます。そして、最後に弦楽器の首席奏者一人一人とハグをして健闘を称え合い、オケを解散させました
チョン・ミュンフンは私が一番好きな指揮者ですが、彼ほどのカリスマ性を備えた指揮者は現在、数えるほどしかいません プログラムといっしょに配られたチラシに「チョン・ミュンフン特別インタビュー」が載っています。そこで彼は次のように語っています
「何の媒体も介さずに人と人の生身の感性のやりとりが発生する場所は、もはやクラシックのコンサートしかありません。その人間の声をぜひダイレクトに感じてほしい」
彼の言葉に共感します。生きている限り、生のコンサートに通い続けたいと思います