18日(火)。山梨市が今日予定していた社会学者、上野千鶴子さんの講演会を過去の発言などを理由に中止にした問題で、市は昨日、一転して開催を決めたとのこと 市では「先週の中止報道以降、賛否両論が寄せられ検討した結果」と理由を説明しているそうです
バカな話です。上野さんは自身のブログで「講師の考えに賛同できないという少数の”市民”のメール等のクレームで中止するとは、あってはならないこと」などと批判していました もともと、市は昨年11月に上野さんに対し、在宅医療や介護をテーマに講演を依頼していたのに、なぜ過去に新聞に掲載された少年の性をめぐる意見を持ち出して「公費で催す講演会の講師としてふさわしくない」として中止するのか、理解できません。この講演には164人が参加申し込みをしていたそうですが、この騒ぎで申し込みが増えるのではないでしょうか
私は、朝日新聞の土曜別刷りbeに掲載されている人生相談コーナー「悩みのるつぼ」を毎週楽しみにしていますが、何人かいる回答者の中で上野千鶴子さんの回答が一番冴えていると思います。私が山梨市民だったら是非今日の講演を聴きたいと思うくらいです
閑話休題
昨夕、当ビル10階ホールで日本記者クラブ主催の試写会「ワレサ 連帯の男」を観ました 自主管理労組「連帯」創立メンバーから大統領になったレフ・ワレサ氏の半生を描く、ポーランドのアンジェイ・ワイダ監督の最新作です
1970年代から1980年代にかけて、ポーランドをはじめとする東ヨーロッパ諸国は、ソヴィエト連邦の傘下にあり、検閲や思想統制などにより社会的に束縛されていました その”社会主義体制”に対して、人々は自由のために戦いました ポーランドにおける自由のための闘いを主導したのがレフ・ワレサでした
物語は、1980年代初頭、グダンスクの造船所で電気工として働くワレサの家に、イタリアの著名なジャーナリストが取材に訪れ、検閲や思想統制など社会的に拘束されていた中で、自由のために労組のリーダーとして闘っているワレサにインタビューし、ワレサが連帯の運動を回想する形で進みます
当時撮影された記録映像と、35ミリと16ミリのカメラで撮影した実写映像とを結合させて、さながら”セミ・ドキュメンタリー”の様相を呈しています モノクロとカラーが混在して映し出されますが、モノクロだから古い、カラ―だから新しい時代を映し出したというのでなく、時間の流れに関係なく混在して映し出されます したがって、どこまでが本当の記録映像で、どこからが創りものなのか判然としないというのが正直なところです
この映画は、連帯労組の”英雄”としてのワレサばかりを描いているわけではありません 6人の子どもを育てながらワレサを支えたダヌタ夫人の日常的な苦労も描いています。ワレサが労組の集会やデモに出かける時には必ず、腕時計と指環を外してダヌタ夫人に「自分にもしものことがあったらこれを売れ」と言って手渡すシーンがあります 反政府運動をリードしては逮捕され、釈放されてはまた運動を再開し、また逮捕され・・・・といったことを繰り返しますが、その都度ワレサは腕時計と指環を妻に残します 6人の子どもを育てながら日常の生活を維持しなければならないダヌタ夫人の気持ちはいかばかりか、と同情してしまいます
ワレサはノーベル平和賞を受賞しますが、ノルウェー大使館から授賞式に出席してほしいという電話がきたとき、ワレサが「一旦、国の外に出たら戻れないのだ。代わりに妻に出席させる」と答えるシーンがあります。これを観て、やはり記者クラブの試写会で観た「The Lady アウンサン・スーチー」の主人公、ミャンマーのアウンサン・スーチーさんと同じ運命だな、と思いました
体制側と労組側との間の闘いのシーンでは、80年代のロックミュージックが流れます 私には一つも聴き覚えがない曲ばかりでしたが、歌詞は反体制的な内容です。これらの音楽がなければまったく印象の違う映画になっているのではないか、と思うほど重要な要素になっています 逆にこの映画で使われているクラシック音楽は、ショパンの「英雄ポロネーズ」冒頭の勇壮なテーマだけです。ラジオのニュース番組のテーマ音楽のような形でほんの5~6秒流れるだけです それでも、やはりポーランド映画にはポーランド出身のショパンですかね
この映画は、ワレサが国連で自由の大切さについて演説し、各国代表のスタンディングオベーションを受ける記録映像で終わりますが、その陰にはダヌタ夫人の陰の力があったのだということを歴史に刻まなければならないでしょう
2013年、ポーランド語・イタリア語。上映時間127分。4月5日(土)から岩波ホールでロードショー公開されます。88歳のアンジェイ・ワイダ監督はなぜ今になって「ワレサ 連帯の男」を撮ったのか? 今なぜワレサなのか? 労働組合が機能しづらくなっている現代においてこそ観るべき映画かもしれません