25日(火)。当ブログの読者Nさんから絵葉書が届きました クリ―ヴランドの音楽学校に通われているご子息に会いに行かれたそうで、写真はクリ―ヴランド管弦楽団の本拠地・セヴェランスホールとのこと Nさんによれば「アメリカの五大オーケストラホールの中で最も美しくエレガントな造り」ということです かの名指揮者ジョージ・セルもこのホールで颯爽と指揮をしたことでしょう
閑話休題
23日付の日経朝刊・文化欄に仏文学者・杉本秀太郎氏が「ピアニスト」の題でエッセイを書いていました。ちょっと長くなりますが超訳すると
「FM放送などで聴いて『おや?』と思い『アッ』と驚いたピアニストは後でCDで確かめる 最近の新人ピアニストで目覚ましいのは、カティア・ブニアティシヴィリとダニール・トリフォノフの二人である グルジアの女性ピアニスト、ブニアティシヴィリはショパンの『ピアノソナタ第2番』の演奏で、これほど強靭な構造のみならず、目のくらむ断絶と、それに応ずる飛躍を備えているのを示した 一方、トリフォノフは、ショパンの『24の前奏曲』のすべてに、同型の付点リズムを回復させることで、24曲が全体として、同型のリズムの変奏曲という他に類のない性格をもつことを示した 二人に共通しているのは、楽譜を読み解く力である。キーを叩くのではなく、キーを押す指にだけ与えられる一瞬の休息状態で指は考える 言い換えれば、「音を出す装置」ではなく、「音に触れる装置」としてピアノを扱うことが大切な条件である ピアノを「音に触る装置」と考えるだけで「タッチ」は変わってくる。かれらの音は、ピアノのなかにもともとこもっていた音に彼らが触ったがために、音が起き出して鳴響となったように聞こえる 『私』が主張されていない。『私』は消され、代わりに音が立っている。この無私、それが素晴らしい。一時代、二時代前の大家たちには、これは手の届かないところであった グレン・グールドに至っては『音を出す装置』としてのピアノから『私』を押し出すことに終始していた 『私』を押し出すピアニストの奏法とその帰結は、『私』を消す奏法とその帰結によって批評され、ピアノ音楽を変容させつつある。この傾向の口火を切ったのは、グールドと同じくカナダ生まれのピアニスト、アンジェラ・ヒューイットであった 「音に触る装置」としてのピアノという考えを私に与えたのは、このピアニストのバッハ「平均律」第2巻の2度目の録音を繰り返し聞いた経験だった」
私はアンジェラ・ヒューイットの演奏するバッハ「平均律クラヴィーア曲集」のCDを持っていますが、杉本さんのような観点から意識して聴いたことはありません 彼女は世界中のピアニストが使用するスタインウェイは使わず、イタリアのFAZIOLIを弾きますが、そのことと杉本さんの言われる「私を消す奏法」と何か関係があるのかどうか。そう思って調べてみたら、私の持っているCDは1997年~99年にベートーヴェンザールで録音されたもので、使用ピアノはスタインウェイでした。したがって、杉本さんの聴いた「二度目の録音」とはFAZIOLIで弾いた新しい演奏であるようです。ネットで調べていたら、ヒューイットはどうしてもFAZIOLIでバッハの「平均律」を残しておきたいとして録音に臨んだようです。是非聴いてみたいと思います
(1997年~99年録音の平均律クラヴィーア曲集)
ヒューイットのCDはショパン「夜想曲・即興曲集」やべーヴェン「ピアノ・ソナタ」、「バッハ名曲集」などを持っていますが、一番気に入っているのはショパンの「夜想曲・即興曲集」です。これはFAZIOLIで弾いていますが、しみじみと心に沁みる演奏です
(ショパン「夜想曲、即興曲全集」。サイン入り)
閑話休題
日曜日の午後5時から上野の東京文化会館小ホールで「東京・春・音楽祭」の「リヒャルト・シュトラウスの生涯~生誕150年に寄せて」の第Ⅳ部「オペラ作曲家として」を聴きました 自席はF列27番、遅刻した第Ⅰ部の時と同じ席です
最初に成田達輝のヴァイオリン、津田裕也のピアノにより歌劇「ばらの騎士」から「ワルツ」が演奏されました。第2幕フィナーレでオックス男爵が踊りながら口ずさむシーンが目に浮かびます
2曲目は津田裕也のピアノ独奏で、歌劇「サロメ」から「7つのヴェールの踊り」が鮮やかに演奏されました 津田は最近、松山冴花とデュオを組んだりして活躍が目立ちます
次に、歌劇「カプリッチョ」から「序曲」が弦楽六重奏により演奏されました 演奏はヴァイオリン=崎谷直人、三原久遠、ヴィオラ=横溝耕一、佐々木亮(N響首席)、チェロ=奥泉貴圭、門脇大樹という若手中心のメンバーです この曲はオペラの序曲なのに室内楽的な魅力に溢れた曲です。6人の演奏は緻密で素晴らしいアンサンブルでした
次にメゾ・ソプラノの加納悦子が登場し、歌劇「ばらの騎士」の冒頭部分、オクヴィアンの「だれも知らない」を艶やかに歌いました まさにメゾ・ソプラノの魅力全開といった感じです
次はソプラノの横山恵子が登場し、歌劇「エジプトのヘレナ」から「第2の新婚初夜!魅惑的な夜」を輝かしいソプラノで歌い上げました。とにかく恵まれた体格から繰り出す声は迫力があります
最後はソプラノの安井陽子が登場、歌劇「ナクソス島のアリアドネ」から「偉大なる王女様」を身振りを交えながら熱唱しました かなり長いアリアですが、安井はツェルビネッタに成りきってコロラチューラ・ソプラノの魅力をたっぷり聴かせてくれました これを聴いていて、彼女が新国立オペラで歌ったモーツアルト「魔笛」の「夜の女王のアリア」の素晴らしい歌唱を思い出しました この歌で、前の歌がぶっ飛びました 拍手の嵐です まだ安井陽子の歌を聴いたことがない方は、是非一度ナマで聴いてみてください。とにかく凄いです