9日(月・休)。わが家に来てから今日で2403日目を迎え、緊急事態宣言下で開催された東京五輪で日本勢は金メダル27個をはじめ史上最多のメダル58個を獲得し、昨日 全競技を終え 閉会式を迎えた というニュースを見て感想を述べるモコタロです
メダル獲得と並行して新型コロナ感染者数が最多を更新し続けたことも記録に残る
中山七里著「合唱 岬洋介の帰還」(宝島社文庫)を読み終わりました 中山七里は1961年、岐阜県生まれ。「さよならドビュッシー」で第8回「このミステリーがすごい!大賞」の大賞を受賞し2010年にデビュー それ以降「お休みラフマニノフ」「いつまでもショパン」「もういちどベートーヴェン」など作曲家タイトル・シリーズを発表する一方、「追憶の夜想曲」「アポロンの嘲笑」「テミスの剣」など数多くの作品を発表し、「中山七里は7人いる」と言われる多作ベストセラー作家です
仙街不比等(せんがい ふひと)は幼稚園で幼児らを惨殺した直後、自らに覚せい剤を注射する 「平成最後の凶悪犯」と呼ばれる仙街の担当検事になった さいたま地方検察庁刑事部1級検事の天生高春は、刑法39条の適用(心神喪失状態のもとでの犯罪は責任能力がないと判断される)で無罪判決が下ることを恐れ、検事調べで仙街の殺意を立証しようと試みる しかし、取り調べの最中に意識を失ってしまい、目を覚ますと目の前には仙街の銃殺死体があった その間、検事事務官の宇賀麻沙美は嘔吐感をもよおし席を外していた 拳銃からは天生の指紋が、上着からは硝煙反応が検出され、天生は殺害容疑で逮捕されてしまう 一方、岬洋介は世界的なコンサート・ピアニストになっているが、司法修習生時代の仲間・天生が逮捕されたことをワールド・ツアーの最中に知り、10年前の約束を果たすために、すべての公演をキャンセルし日本に帰国する 10年前、天生は「何かのはずみで被告人にならないとも限らない。その時は君が弁護人になってくれ」と頼むと、洋介は「僕でよければ地球の裏側からでも駆けつけますよ」と約束していたのだった しかし、洋介自身は弁護士資格を持っていないため、天生の弁護人として「悪辣弁護士」だが「無敗の弁護士」として知られる御子柴礼司を選び、天生に代わって法外な弁護士報酬を支払う 法廷で争う相手の検事は何と洋介の父・岬恭平東京地検次席検事だった かくして、御子柴礼司を巻き込んだ岬親子の対決が法廷で繰り広げられることになった
登場人物のうち、天生高春と岬洋介は「もういちどベートーヴェン」他の作品で登場するし、悪徳弁護士の御子柴礼司は「贖罪の奏鳴曲」「追憶のノクターン」「恩讐の鎮魂曲」などで主役を張っています また、仙街を現行犯逮捕する埼玉県警捜査一課の小手川和也と、その上司・渡瀬のコンビは「連続殺人鬼カエル男」「切り裂きジャックの告白」等の作品に登場しています そういう意味では、本書は中山七里の作家デビュー10周年を記念したオールスター総出演ミステリーと言えます
ところで、本書のタイトル「合唱 岬洋介の帰還」の「合唱」とは、ベートーヴェン「交響曲第9番”合唱付き”」のことを意味しています 天生が自分の執務室で休憩を取る際、携帯オーディオで音楽を聴くのに15分程度で聴ける曲ということで選んだのが「第九」の第1楽章でした 曲を聴いた後、天生は研修生時代に同じグループにいた岬洋介のことを思い出します。「検事になることを止め、ショパンコンクールに出場して物議をかもした後、プロのピアニストになったというが、今頃どこでどうしているだろう」と感慨にふけります その彼が自分の窮地を救うため日本に帰還するとは思ってもみなかったでしょう
そして、もう一つの「合唱」の意味は、「第九」の各楽章になぞられてストーリーが展開していることです つまり、第1章(第1楽章)「アレグロ・ノン・トロッポ、ウン・ポーコ・マエストーソ」、第2章(第2楽章)「モルト・ヴィヴァーチェ」、第3章(第3楽章)「アダージョ・モルト・エ・カンタービレ~アンダンテ・モデラート」、第4章(第4楽章)「プレスト〜アレグロ・アッサイ」、そして第5章として第4楽章の後半の「おお友よ、このような音ではない」が独立して設定され、「エピローグ」で閉じるという形式になっているのです
中山七里は過去の作品のタイトルからも解るように、相当なクラシックファンです 多くの作品でクラシックの作品について、主人公の口を借りて解説させていますが、その語り口は音楽評論家も真っ青になるほどプロ級です
本書の巻末には過去10年間(2010年1月~2019年3月刊行分)の中山作品56冊の登場人物の相関図が掲載されています 本書を読むうえでも大いに参考になります もちろん 本作でも「アッと驚くどんでん返し」が待っています 中山七里ファンはもちろんのこと、初めて彼の作品を読む人にも強く推薦します