アイスランドの国会アルシンキは西暦1000年(正確には999年の夏のようです)にキリスト教を国の信仰として採ることを決めました。アイスランド島への入植は9世紀末から始まり、アルシンキの原形が形作られたのが930年と言いますから、国の形成のごく初期からキリスト教が共にあったことになります。
当初のアイスランドのキリスト教というのは西方教会、つまりローマン・カトリック教会だったのですが、途中デンマーク王国の属国になった時期にドイツからの宗教改革の波が押し寄せ、1550年以降はルター派の教会(ルーテル教会)に変りました。
現在のアイスランド国民教会もルーテル教会であり、憲法ではアイスランド共和国はルター派教会を国民の教会とする旨を謳っています。もちろんその一方で各個人の信教の自由は保証されることも謳っています。
さて、これだけ昔から国と教会が横並びで歩んでくると、当然国と教会の関わりの曖昧な部分や、以前は問題にならなくても現在のものの考え方からは疑問を呈されるようなことが出てきます。
この問題はかなり奥が深く、詳細に取り上げるとブログの相当回数のネタになるかと思います。でもそこまでやるには準備が必要ですし、また「そこまで興味ねえよ」という方の方が多いでしょうから、ここでは先日ニュースになったことのみをご紹介します。
現在アイスランドの国民教会では140人程度の牧師が働いています。(曖昧な表現ですが、牧師にもサバティカル中の人、その代理の人、事務局に入っている人等々の奉職状況があり、正確な数を取るのが意外に難しいのです)
で、牧師さんたちはおおまかにいって「地方牧師」と「都市部牧師」に分かれます。これは実際に相当仕事の仕方などが異なっているのです。都市部の場合は人が大勢いますから、それに付随して冠婚葬祭や相談事なども多くなります。これは日本の方にも想像しやすいことでしょう。
田舎での牧師さんは住人数が何百人という小さな村の面倒を見ることになります。当然その村をお世話するためだけにひとりの牧師を置くことはできません。そこで近隣の村々を兼任することになります。田舎ではひとりの牧師さんが移動をしなくてはならない距離は相当なものになります。(この点では日本の教会の牧師さんも同じ状況かとは思いますが)
それが本題ではありません。本題は田舎の教会の多くのところではHlunnindiフルンニンディというものが存在することです。これは「付属する権益」とか「役得」とかを意味する言葉です。ここでは田舎の教会が持っている土地に付属する様々な収入を指しています。
国民教会はアイスランド全国で広範な土地を有しています。(相当複雑な問題です) で、田舎の方へ行くと例えば鮭が釣れる川やトナカイが獲れる山があったりします。鮭を釣ったりトナカイを穫るのは自由ではありません。ちゃんと許可を得て料金を支払わなくてはなりません。そうした収益の相当な割合がそこの牧師個人の収入になるのです。
ニュースで扱っていた例を見てみましょう。
北西部フィヨルドの土地ヘイダーリルは、日本でも良く知られているアイダー鴨の産卵地です。このアイダー鴨が巣に残す羽毛は超高級なダウン素材です。このアイダーダウンのそこでの収益は1.000万クローナといわれます。この土地には他に鮭のいる河川もあり、ここのG牧師さんは給料の他に毎年30万クローネの副収入があるようです。
「自然はアイスランドの財産」高級資源のアイダー羽毛
Myndin er ur Visir.is
これくらいならまだ常識の範囲内でしょうが、そのG牧師の息子のS牧師は東の方の田舎にいます。そこには大きな河が教会の土地内を横切っています。その河の権益でこのS牧師は過去二年間で1.000万クローネの収入。
同じく東の田舎の教会のL牧師。この方はもう引退されていますが、十年前にカウラフニューカという巨大ダム建設の際に、一部の教会所有の土地が使われました。その保証金の半分750万クローネが自分のポケットに。加えてトナカイ収入が十年間で1.100万クローナだったと報じられました。
レイキャビク近くでもあります。車で30分程度の片田舎のK牧師。鮭の入漁料収入と土地の貸与収入で年間副収入が400万クローナだそうです。
土地に付属する収益があることは分かるのですが、それがとても大きな割合で牧師個人の収入になる、というのは全く理解できません。彼らは口を揃えていいます。「鴨でも河でもそれなりに維持管理する仕事があるのだ」と。
それならその仕事に見合うだけの給料を教会事務局が算定して支払うのが筋だと思いますし、残りは教会全体の収益として全体の益になるように使うべきでしょう。難しいのは一度権利として確立してしまっているものを変えることです。既に利益を受けている人たちが必死で抵抗するのは、残念ながら牧師さんたちでも変わりはありません。
しかしながら世間はもちろん批判的な目で見ています。当然ですよね。なんか昔の「地頭」という言葉を連想しました。
教会のアグネス監督はこの問題を検討するための委員会を任命しました。委員長はかつてレイキャビク市長や国会議員をしていたステイヌン・V・オウスカードティール女史です。
私は個人的にはこの問題がきちんと取り上げられたことを歓迎しています。半分はひがみですが (^-^;、半分は正義感です。
教会内ではずっと以前からこの問題は指摘されていました。しかし改革を避けまくっていた前シーグルビョルンスソン監督は蓋をしたままで過ごしてきていたのです。
この他にも、国民教会を巡ってはいろいろと現代社会用にアレンジしていかなくてはならないことがあります。全てを一度に改革することは無理でしょうが、取り上げた課題についてはきちんとした取り組みを示して世間の信頼を得ることが不可欠でしょう。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
当初のアイスランドのキリスト教というのは西方教会、つまりローマン・カトリック教会だったのですが、途中デンマーク王国の属国になった時期にドイツからの宗教改革の波が押し寄せ、1550年以降はルター派の教会(ルーテル教会)に変りました。
現在のアイスランド国民教会もルーテル教会であり、憲法ではアイスランド共和国はルター派教会を国民の教会とする旨を謳っています。もちろんその一方で各個人の信教の自由は保証されることも謳っています。
さて、これだけ昔から国と教会が横並びで歩んでくると、当然国と教会の関わりの曖昧な部分や、以前は問題にならなくても現在のものの考え方からは疑問を呈されるようなことが出てきます。
この問題はかなり奥が深く、詳細に取り上げるとブログの相当回数のネタになるかと思います。でもそこまでやるには準備が必要ですし、また「そこまで興味ねえよ」という方の方が多いでしょうから、ここでは先日ニュースになったことのみをご紹介します。
現在アイスランドの国民教会では140人程度の牧師が働いています。(曖昧な表現ですが、牧師にもサバティカル中の人、その代理の人、事務局に入っている人等々の奉職状況があり、正確な数を取るのが意外に難しいのです)
で、牧師さんたちはおおまかにいって「地方牧師」と「都市部牧師」に分かれます。これは実際に相当仕事の仕方などが異なっているのです。都市部の場合は人が大勢いますから、それに付随して冠婚葬祭や相談事なども多くなります。これは日本の方にも想像しやすいことでしょう。
田舎での牧師さんは住人数が何百人という小さな村の面倒を見ることになります。当然その村をお世話するためだけにひとりの牧師を置くことはできません。そこで近隣の村々を兼任することになります。田舎ではひとりの牧師さんが移動をしなくてはならない距離は相当なものになります。(この点では日本の教会の牧師さんも同じ状況かとは思いますが)
それが本題ではありません。本題は田舎の教会の多くのところではHlunnindiフルンニンディというものが存在することです。これは「付属する権益」とか「役得」とかを意味する言葉です。ここでは田舎の教会が持っている土地に付属する様々な収入を指しています。
国民教会はアイスランド全国で広範な土地を有しています。(相当複雑な問題です) で、田舎の方へ行くと例えば鮭が釣れる川やトナカイが獲れる山があったりします。鮭を釣ったりトナカイを穫るのは自由ではありません。ちゃんと許可を得て料金を支払わなくてはなりません。そうした収益の相当な割合がそこの牧師個人の収入になるのです。
ニュースで扱っていた例を見てみましょう。
北西部フィヨルドの土地ヘイダーリルは、日本でも良く知られているアイダー鴨の産卵地です。このアイダー鴨が巣に残す羽毛は超高級なダウン素材です。このアイダーダウンのそこでの収益は1.000万クローナといわれます。この土地には他に鮭のいる河川もあり、ここのG牧師さんは給料の他に毎年30万クローネの副収入があるようです。
「自然はアイスランドの財産」高級資源のアイダー羽毛
Myndin er ur Visir.is
これくらいならまだ常識の範囲内でしょうが、そのG牧師の息子のS牧師は東の方の田舎にいます。そこには大きな河が教会の土地内を横切っています。その河の権益でこのS牧師は過去二年間で1.000万クローネの収入。
同じく東の田舎の教会のL牧師。この方はもう引退されていますが、十年前にカウラフニューカという巨大ダム建設の際に、一部の教会所有の土地が使われました。その保証金の半分750万クローネが自分のポケットに。加えてトナカイ収入が十年間で1.100万クローナだったと報じられました。
レイキャビク近くでもあります。車で30分程度の片田舎のK牧師。鮭の入漁料収入と土地の貸与収入で年間副収入が400万クローナだそうです。
土地に付属する収益があることは分かるのですが、それがとても大きな割合で牧師個人の収入になる、というのは全く理解できません。彼らは口を揃えていいます。「鴨でも河でもそれなりに維持管理する仕事があるのだ」と。
それならその仕事に見合うだけの給料を教会事務局が算定して支払うのが筋だと思いますし、残りは教会全体の収益として全体の益になるように使うべきでしょう。難しいのは一度権利として確立してしまっているものを変えることです。既に利益を受けている人たちが必死で抵抗するのは、残念ながら牧師さんたちでも変わりはありません。
しかしながら世間はもちろん批判的な目で見ています。当然ですよね。なんか昔の「地頭」という言葉を連想しました。
教会のアグネス監督はこの問題を検討するための委員会を任命しました。委員長はかつてレイキャビク市長や国会議員をしていたステイヌン・V・オウスカードティール女史です。
私は個人的にはこの問題がきちんと取り上げられたことを歓迎しています。半分はひがみですが (^-^;、半分は正義感です。
教会内ではずっと以前からこの問題は指摘されていました。しかし改革を避けまくっていた前シーグルビョルンスソン監督は蓋をしたままで過ごしてきていたのです。
この他にも、国民教会を巡ってはいろいろと現代社会用にアレンジしていかなくてはならないことがあります。全てを一度に改革することは無理でしょうが、取り上げた課題についてはきちんとした取り組みを示して世間の信頼を得ることが不可欠でしょう。
応援します、若い力。Meet Iceland
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