レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

修道院の夜の惨劇

2018-12-09 03:00:00 | 日記
アズヴェンタ二週目。レイキャビクでは、冷え込んだ前々週から多少持ち直した週後半を経て、また気温が零下になっています。ですが、週間予報では、今週後半は暖かくなり、その代わり雨だそうです。

まあ、雨でも雪でも風が吹かなければそう難儀はしません。先々週は寒さに加えて風もありましたので、しばらくは静かでいてほしいものです。

先週からのこちらでの話題は「クロイストゥルの夜の出来事」です。はっきり言って「惨劇」とも言えます。この話題でニュースは持ちきり。海外にまで飛び火して、スウェーデンやデンマークのニュースでも取り上げられています。

クロイストゥルというのは「黒い椅子を取る」のではなくて(初めの変換で出てきた言葉 (^-^; )、Klaustur(修道院)という名前の市内ダウンタウン, 国会アルシンキのすぐ脇にあるバーのことです。




「惨劇」の余波 主権100周年の祝日に行われた「抗議」集会
Mydin er ur Ruv.is


去る十一月の末のある晩、中道党党首で前首相のシグムンドゥル・ダヴィ・グンロイグルルスソン氏が、党の盟友である前外相グンナル・ブライエ・スヴェインスソン氏ら政治家五人とクロイストゥルでプライベートな飲み会を持ちました。

シグムンドゥルとグンナル以外に同席したのは同じ中道党議員のベルクソウル・オウラソン氏、女性議員のアンナ・コルブルン・アルトナルドティール氏、「人々の党」のオーラブル・イーシレイブスソン氏とカルトゥ・ゴイティ・ヒャルタソン氏の両議員。政治家の集まりです。

皆さん結構飲んだらしく、かなりな大声で同僚の政治家のことを中心にして、あーだこーだ言いたいことを言いまくったのでした。ただ彼らの知らぬ問題がありました。ある女性が隣りの席で会話を秘密裏に録音していたのです。

この女性は自分で「ゲイの障害者」と言っているようで、議員達の話しの内容が自分達にも関係しているみたいだと感じ携帯で録音を始めたとか。録音時間はなんと四時間にも及んだそうです。そして会話の内容に義憤を感じた彼女はDVという新聞社に録音を持ち込んだようです。

で、会話のいっさいが公にさらされてしまいました。

この会話の中では、男五人を中心にして、周囲の人間を軒並み罵倒というか蔑んだ言葉でバカにしまくっているのでした。特に女性議員達に対する、女性蔑視的な発言が多く、さらに身体障害者である前女性議員に対する嘲り、同性愛者のある男性に対しての中傷なども含まれていました。

「人々の党」の男ふたりは、自分たちの党首であるインガ・サイランド氏のことも「無能」「何もできない」などとこき下ろしていたのです。

この会話はあっという間に全マスコミに広がりました。録音そのものも、わざわざ書き下ろしたものも。当然、悪く言われた当人達はもとより、国民全体が怒り心頭に達したわけです。




「惨劇」の主人公六人衆
Myndin er ur DV.is


私はこのニュース、そこまで徹底的にフォローしたいとは思わなかったので、詳細がわからないところもあります。ただ、悪口雑言の対象になっていた人は相当数に上るようで、社会民主連合の党首や、シグムンドゥルやグンナルとは以前同僚だった、現教育文化大臣のリルヤ・アルフレズスドティール氏まで含まれいたと報じられています。

ちらっと見聞きした範囲では、確かに酷い言葉をあびせています。時々あちこちの居酒屋とかでも、相当酔っ払ったサラリーマンの方々が上司をこき下ろしているのを目撃してしまうこと、ありますよね。あんな感じです。

今回のような「隠し録り」の合法性も疑問に思えるのですが、国民の目はそちらの方向へは向かず、すでに「議員を辞めろ!」の大合唱へと発展しています。

実際に人々の党のふたりは、事件?発覚の翌日の党の会議で、即、党から追放されてしまいました。「しまいました」と書いていますが、私は彼らに何の同情心も持っていませんので念のため。

中道党のブライエとベルクソウルは、これも速攻で「休暇」を取り雲隠れ。シグムンドゥルはFacebookで弁解の弁を掲載しましたが、これが「(彼が問題を)何も理解していないことを暴露する内容」と非難され、火に油を注ぐ結果となってしまいました。「なってしまいました」と書きましたが、私は彼に何の同情心も持っていませんので念のため。

女性一人だったアンナ・コルブルンは「私は酔っていなかったけど、ベロベロの酔っ払いの男達を相手にして、それを止めることなんかできないでしょ」と弁明。

ところが、同じ時期に彼女が国会のサイトにある自身の履歴に、事実とは異なる「粉飾」があることを指摘され、こちらも世の非難を免れることはできないようです。

で、私は考えました。「どう考えるべきだろうか?」と。




「惨劇」の舞台クロイストゥルバーより国会を見る
Myndin er ur Visir.is/VILHELM


まず第一に、私はこの連中 -まあ全員ではなくシグムンドゥルとグンナルですが- が好きではありません。はっきり言って「汚い連中」と思っています。今回のことが明らかになる前から、「前史」がありましたから。

ですが、好き嫌いと、ものごとの良し悪しは別の次元の事柄ですね。

私も日本人ですから、「酒の席での憂さ晴らし」は自身体験してきています。酒の場で言いたい放題言ったとしても、それが本心か?と問われれば必ずしもそうではないように思えます。

そういう時の放言をこっそり録音されて、あとから「ホラッ」というのをされたらちょっと困る、という人は大勢いることでしょう。「それは、酒の席でのことだから...」という合意が日本社会ではありますよね。良し悪しは別として。

酒の席でのあれこれを、素面の時に取り上げるのは、取り上げる方が「ルール違反だ」というような向きもあるのではないでしょうか?少なくとも昔はそうでしたよ。

今回、この騒動を通して感じたのは、ヨーロッパでは「酒の席だから」という言い訳はない、ということです。これは多分、日本とはかなり違うメンタリティというか、社会道徳なのではないでしょうか?

先に少し触れましたように、今回の録音の合法性には疑念がありますし、加えてこの会話は「内々」もので公式の席でのものでもありあません。だから多少は追及の手も緩むかな?という気はしたのです。

ですが、こちらではそれらが問題ではないようです。問題は「あいつら国会議員が、女性のことを、障害者のことを、ゲイの人のことを、あのように考え嘲ったのだ」という事実なのです。

「酒の席」もなし。「内々の話し」もなし。「言った」ということが問題なのです。なぜなら、それは人としてのモラルの関わることだからです。

私の個人的な意見ですが、日本の社会では、行いの是非について考える時でも「バレなければしていいんだ」という考え方が存在しているように思います。これは自分に対するモラルというよりは、他者からどう見られるか、という功利的な判断だろうと考えます。

こちらでは、その点が「その出来事によって誰彼が損した、得した」という結果とは独立して「その出来事自体がモラルにかなっているかどうか」という問いかけがシビアになされるのです。「いつでも、誰に対しても」というところまではいかないでしょうが、政治家を始めとする「公人」に関してはそうあるようです。

いつものことですが、私は日本とアイスランドを比較して、安直に「こっちの方がいい、あっちはダメ」ということを言うつもりはありません。良し悪しを図る物差しはひとつではありませんから。ただ、ここには「違ってるね」と言えるものがあるのは確かだと思います。

この「クロイストゥルバーの夜の『惨劇』」、どのような結果に落ち着くのでしょうか?いま騒ぎようからすると、まだしばらく時間がかかりそうです。

それで私はどう思うか?はっきりしろ?
「さっさと辞めちまえ、オマエら!」が私の言い分です。


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com

Home Page: www.toma.is

コメント (2)
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