
◆アメリカのノードストロームというデパートは、お客様にNOを言わないことを
社是にしていることで知られています。
例えばお客様の希望する商品を扱っていなかったら、その商品を扱っている
他店を紹介するという風にです。
ある日本人旅行客が、そのお店で、気に入ったシャツを見つけましたが,あいにく
自分のサイズに合ったものがありません。
明朝に日本に向けて立つ予定なのであきらめました。
ところが対応したクラークは、そのあと調べて、
50マイルばかり離れた別のお店にその商品があるかことを突き止め、
夜車を走らせ、翌朝宿泊先のホテルへ商品を届けたのです。
◆数10ドルのシャツを届けるために、通りすがりの旅行客に、そんな代償を払うことは
ビジネスとして全く割の合わない行動で、議論は分かれるところでしょう。
ただ受け取った人は大変感動しました。
たまたまその人は日本では有名人で、帰国後 その感動をいろんな人に言い触らしたので、
ある雑誌に紹介されたのです。
結果としてなんと大きな宣伝となったことでしょう。
◆海上自衛隊のイージス艦はアーレイ・バーク型と云われますが、米海軍のトップに
登りつめたアーレイ・バークの名前からきています。
彼は海上自衛隊の人間かと揶揄されたほど、日本のために大きな貢献を果たし、
勲一等旭日大綬章を授賞しています。
亡くなった時、彼の遺言によって数ある勲章の中から、この勲章だけが彼の胸に付けられていました。
それほど日本びいきだったのです。
◆そのアーレイ・バークが最初は反日で、全く日本嫌い、だったのです。
というのも彼は第2次大戦の時、駆逐艦隊率いて、日本の艦隊と戦い何隻か撃沈したものの、
自分の方も撃沈され多くの部下を無くし、また日本に関する情報は悪いものばかりで、
ずっと快く思っていなかったのです。
それが、戦後日本に赴任となり、来日したのです。
◆仕事以外のことで、日本人と話もしたくないという意識でした。
慰みに、ある日泊まっている帝国ホテルの地下で、
花を買ってコップに入れて鏡台の上に置いておいたら、
帰ってきた時、花は花瓶に移し替えられていました。
その後も新鮮な花が、いつも美しく生けられるようになったのです。
ある時フロントで、その礼をいったところ、ホテルはそんなことはしていないという返事です。
◆調べてもらったら部屋のメードがやってくれていたのです。
会ってみると小柄な年配の女性で、ご主人をこの戦争で亡くしているのです。
お礼のお金を渡そうとしたものの一切受け取ろうとしないので、結局ホテルを通して
匿名で彼女の退職金の一部として寄付しました。
とにかく、その一件がアーレイ・バークの日本人への認識を大きく変へていくきっかけとなり、
そんな小さな善意が日米関係にも影響を与えることになっていったのです。
(中公新書「海の友情」阿川尚之著参照)
◆人間は利益のためか、損失を避けるために、常に行動する動物であると云われるように、
無意識のうちにも、いつもシビアに損得勘定を計算しながら行動しています。
また人になにか親切や善意をしてあげる時には、当然のこととして、
その見返りを期待して行うものです。
だから、反対に全く見返りを期待しない、親切や善意の行為に出会うと戸惑ってしまい、
余計に心を揺り動かされるのかもしれません。
◆“全く見返りを期待しない”というのが、人を感動させる“鍵”と言えそうですが、
更に究極を言えば、その行為を私のために、しかし私に知られないようにやってくれて
いたことにあるとき偶然分かったというような時、その感動は何倍もの大きなものになるでしょう。
その人に対する感情は好感というようなレベルのものでなく、崇高なものになります。
◆聖人君子であるまいし、知られないようにやってあげる事など、とても出来ないと
云われるかもしれません。
ただそんな行為に対し、必ず見返りがあります。
それは自分の気分がよくなることです。
最近の大脳生理学で分かってきたことは、人になにかいいことをしてあげると、
そういうホルモンが分泌されるようなのです。
◆私たちはたいがい、いつも自分の事ばかり考えているので、その状態が続くと脳が疲労し、
ウツ病やその他の精神的な病の原因になります。
だから人を喜ばすことを考え、それを実践することは、疲れた脳を休ませ、快適で
ハッピーな気分にさせるということです。
人を感動させることで得られる一番の利益かもしれません。