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東京の一流私大の女学生が夏休みに海水浴に行き、
沖まで出たところ急に溺れかかってしまった。
見ていた人間も危険を恐れて近寄らず、そこで一人の
青年が賢明に泳いで彼女を救出し、人工呼吸を施してその場を
立ち去り、その青年が誰なのか、誰にも知るよしがなかった。
大学も二学期に入ると、彼女は構内で見知らぬ男子学生に
水難事故にあわなかったを尋ねられ、頷くと彼は「よかったね。」
と微笑して去った。
ある晩遅く、彼女は銀座からの帰りの電車内で四人ほどの酔った
乗客にからまれ連れ去られそうになり、そこで一人の青年が猛然と
彼女をかばい、傷を負いつつも彼女を逃した。その男性は先日
構内で彼女に声をかけた、その男子学生だった。
彼女は大学の教務課で顔写真を入手して手がかりとし、彼を見つけて
ようやく礼を言う事が出来た。実は水難事故から彼女を救ったのも
彼だった。それを機会に彼女に接近する事を潔しとしない心意気から
名前も告げずに立ち去ったとの事だった。
彼女の父親は実業界の大立者で、多額の礼金を贈ろうとするが
彼は拒絶した。彼女は彼との結婚を望んだが身分の違いとして許されず、
彼女は両親を振り切って家出し、二人だけの結婚式を挙げ、結婚生活を
続けている。
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現在巷で氾濫している、相手の所有=愛とする恋愛観とはまた
異なるアプローチですが、相手を単なる自らの所有物としない精神に
却って昇華された芳香を感じてしまいます…。