民間借地借家問題の現状と強制明渡し
東京借地借家人組合連合会 事務局長 細谷紫朗
年々減少する借地、借地の供給につながらなかった定期借地権
借りている土地の上に建物を所有している借地人が年々減少している。総務省の平成20年の土地住宅統計調査によると、全国の所有地2904万世帯に対して、借地が129万世帯(4・3%)、借地の内容を見ると、一般借地117万世帯(3・9%)、定期借地権など12万世帯(0.4%)となっている。平成15年と比較しても43万世帯も減少している。かつて全国の持家で昭和38年に同統計調査で借地の割合が29・1%、東京圏では46・7%と持家の2軒に1軒は借地であった時代と隔絶の感がある。
平成3年に借地借家法が改正され借地の供給が促進されると期待された定期借地権は全く効果がなく、借地人は50年の期限の到来で借地上の建物を取り壊して明渡し義務が発生し新たな問題が予測される。
急増する底地買い、借地人の弱みに付け込む悪質な手口
最近、こうした借地で貸している土地を所有していても「不良資産」となり、相続しても何らの活用もできないと宣伝し、借地の買い取りを申し出る底地買い業者が急増している。これらの不動産業者が地主から買い取る値段は通常の底地価格の3割から1割程度と安く、数十件借地をまとめて買い取るケースが多い。
底地買い業者の手口は、旧地主から手紙で○○不動産に底地を売却したとの一片の通知が借地人宅に送られ、直後に借地人宅を訪問し、今後の地代は借地人宅に毎月集金に来る。地代の集金に来る以上、借地人は業者の面会を拒否することができず、業者からは「私どもは借地をこのまま貸すために買ったのではない。底地を買い取るか、買い取れなければ借地権を売ってほしい」としつこく売買の交渉を迫られる。業者の中にはバブル時に地上げ屋の残党もいて、関西弁で大声でまくしたてられると多くの借地人はノイローゼ状態になり、業者の条件を認めてしまうケースが多い。組合では借地人に対し、業者が集金に来ても「交渉は組合に行って」と交渉は一切しないようアドバイスしている。地代を組合が預かって集金に来させる場合もある。
最近の事例では、借地人が底地の買い取りを拒否すると「貸さないから返せ」と脅迫し、借地人宅を突然に訪問し、面会を拒否しているにもかかわらず玄関のチャイムを何度も鳴らしたり、大声を上げて罵声を浴びせたり、借地人の自宅前に「この土地売予定(借地人付)」との立看板を立てたり、借地人の後を付きまとったりと悪質な追い出し行為が起きている。組合では顧問弁護士を通じて「面談強要禁止」の仮処分申請し、借地人に対し電話や面談の強要明渡しの強要をしないこと等を約束させ和解する事例も生まれている。
東借連では地上げ問題の学習交流会を開催し、底地を業者に買い取られて不安な思いをしている借地人の交流を図り、底地買い業者の悪質な行為にについて国に対して法的な規制を求めて運動していく考えである。
借地人が高齢化する中で、子供がいても借地であるために親と同居しないケースが多く、建物の老朽化が進み借地人が一代限りとなり、空家になる事例も多く、借地権の活用が今後大きな課題となっている。
借家の老朽化と耐震性を理由にした明渡し請求の急増
平成25年の住宅・土地統計調査では、空き家は全国で820万戸と過去最高となった。空き家の内で賃貸用の住宅が429万戸と空家の50%を超えている。賃貸用の空き家が急増する一方で、まだ十分に住むことが可能なアパートやマンションを取り壊して、新しく賃貸住宅に建て替えたり、相続税対策としていつでも売却可能な更地にして、駐車場として貸し出すなどの動きも見える。
東借連に昨年寄せられた借家の相談253件中「明渡し」の相談は110件で43%を占めるなど明渡しの相談が急増している。明渡しの理由は、老朽化と耐震性を理由にするものがほとんどで、「1981年の新耐震基準を満たしていない」、「大地震が起きたら建物の倒壊の危険がある」等と説明している。
また、耐震補強工事をすることは過大な費用がかかると拒否している。
消費税増税の影響で住宅の新規建設が大きく落ち込む中で、賃貸用の住宅の建設は活発になっている。住宅メーカーが開催する相続税対策セミナーには、今年1月からの相続税の増税を心配する資産家に賃貸住宅の建設で借金をして節税することを勧めている。そこでは住宅メーカーが現在居住している借家人の追出しを請け負う事例が多く見られる。そもそも住宅メーカーの社員や不動産業者が家主から依頼されて立ち退きを迫ることは法律行為であり、弁護士法違反に当る。
借家の明渡しには正当事由が必要だが、僅かな立ち退き料で退去させられている
しかし、家主が借家人に対して直接明渡し交渉を行なうことはほとんどなく、管理会社やサブリース会社に丸投げし、明渡しを専門に請け負う業者を使って、家賃の数カ月分の立ち退き料で追い出しを行なっている。
不動産適正取引推進機構の賃貸住宅管理会社に対するアンケート(平成24年6月)のよると、賃貸人の事情による解約申し入れで立ち退き料0円が21.5%、0円~6か月未満が72%で、僅かな立ち退き料で退去させられている。
不動産業者の中には、借家人の法律知識のないことに付け込んで、2年契約の途中で3ヶ月の予告で賃貸借契約を解除したり、「今なら○ヶ月分の立ち退き料を支払うが、期間が満了するまで住み続けるなら無条件で立ち退いてもらう」等巧妙な言い方で借家人に明渡しを同意させ、立退き同意書にサインさせている。
借地借家人組合では、家主の明渡し請求には契約期間の満了する6カ月から1年前に予告すること、期間満了時に明渡しを求める正当事由が必要であり、単に建物の老朽化・耐震性のみで明渡しが認められるわけではなく、
正当な事由のない明渡しに反対している。
高齢単身者の3分の1が借家、深刻な高齢者への入居制限
高齢者のいる世帯が居住する住宅の82・8%が持ち家で、借家が17%を占め持ち家居住が多い一方で、高齢単身世帯では借家の割合が33.9%と3分の1を超えている。
これらの高齢者は老朽化した借家に居住し、劣悪な住環境の中で暮らしている。
兵庫県の借地借家人組合の調査によると、昨年1年間の組合入会者79名中35名44・3%が明渡しの相談で、60代から80代が実に74%を占め、単身者が71%と多い。高齢で単身者の借家居住者が明渡しの問題で借地借家人組合へ助けを求めていることが分かる。
「明渡しを求められても、移転先の家賃が高額で負担できない」、「公営住宅に住みたいが何度も応募しても当選しない」、「高齢者だけで住むというと不動産屋から敬遠される」「息子や娘が近くに住んでいるなどの条件が満たされないと賃貸住宅を斡旋してもらえない」等の高齢居住者の切実な声が上がっている。
東京都が昨年8月に募集した単身者向け住宅の応募倍率は56・8倍、シルバーピアは77・8倍と家族向けの住宅の応募倍率と比較しても異常な倍率であり、高齢者が安心して住み続けられる低家賃住宅が圧倒的に不足している。
民間賃貸住宅に暮らす高齢者の明渡し問題は、経済的な理由だけでなく、環境が変わったり知り合いがいなくなることで、家に引きこもったり、孤独死にもつながる重大な問題である。現在東京都が取りまとめを行なっている「高齢者居住安定確保プラン」においても「民間賃貸住宅においては、高齢者の入居を拒まない住宅や高齢者向け住宅も供給されている一方、単身の高齢者や高齢者のみ世帯は不可とするなどの入居制限が行われている状況が依然として見られます」と指摘している。同プランの基本的な方針では「高齢者の入居の円滑化」では、「民間賃貸住宅について、高齢者が不合理な入居制限を受けることなく、市場を通じて、ニーズに応じた住まいを円滑に確保できるよう、東京シニア円滑入居賃貸住宅の登録の促進などを行います」とあるだけで、具体的な支援策はない。
政府は民間住宅の空家等活用し、改修工事に補助して低廉な賃貸住宅を供給する「住宅確保要配慮者あんしん居住推進事業」が今年度創設され、予算が措置された。1戸当たり50万円(共同住宅用1戸100万円)を限度に工事費用の3分の1が補助されるというが、これらの補助のみではたして低所得者の高齢者が入居できるのか極めて疑問である。家賃を引き下げるには家賃補助などの制度との組み合わせが必要ではないだろうか。
耐震性不足マンションの敷地売却制度の成立で追い出される高齢者
大都市ではマンション居住者が増加し分譲・賃貸のマンション居住は40%を超え、平成24年末現在のストック数約590万戸で、旧耐震基準に基づき建設されたものは約106万戸といわれている。築40年を超えるマンションは20年後には264万戸となる見込みである。老朽化したマンション居住者の高齢化が進み、昭和45年以前のマンションでは高齢者のみ世帯の割合は50・3%を占めている(国土交通省調査)。同時に古いマンションほど借家の割合も増加している。
昨年、地震に対する安全性が確保されていないマンションの建替え等の円滑化を図るために、マンション及び敷地の売却を多数決(5分の4以上)により行うことが可能となるマンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部改正案が国会で可決された。耐震性不足の認定は申請に基づき特定行政庁が行い、デベロッパーである買受人の買受計画(マンションの買受・除去・代替住宅の提供・あっせん)が認定されると、マンション敷地売却決議で買受人であるデベロッパーに売却され、デベロッパーが耐震不足マンションを建替えれば容積率が緩和される仕組みになっている。なお、買受計画の認可は都道府県知事又は市長とされている。複雑な仕組みになっているが、同決議が5分の4以上の区分所有者の賛成で可決されると決議に反対する区分所有者の区分所有権は時価で買い取られる。区分所有者は分配金取得計画に基づき分配金を取得し、借家人は補償金が支払われ借家権が消滅する。同決議が可決すると明渡しの正当事由について争えない。デベロッパーが新たにマンションを建設すれば、再入居も可能となるが、僅かな分配金を取得しても再入居できる居住者は一部に限られることが予想される。老朽化が進み建て替えが困難な分譲マンションが今後デベロッパーに買い取られ、高齢化したマンション居住者と借家人が強制的に追い出される仕組みとなっている。借家人や高齢のマンション居住者の転居先の確保等について、買受人のデベロッパー任せにすることなく、行政がしっかりと関与し居住の安定確保についての支援策を講じることが必要である。以上
東京借地借家人組合連合会 事務局長 細谷紫朗
年々減少する借地、借地の供給につながらなかった定期借地権
借りている土地の上に建物を所有している借地人が年々減少している。総務省の平成20年の土地住宅統計調査によると、全国の所有地2904万世帯に対して、借地が129万世帯(4・3%)、借地の内容を見ると、一般借地117万世帯(3・9%)、定期借地権など12万世帯(0.4%)となっている。平成15年と比較しても43万世帯も減少している。かつて全国の持家で昭和38年に同統計調査で借地の割合が29・1%、東京圏では46・7%と持家の2軒に1軒は借地であった時代と隔絶の感がある。
平成3年に借地借家法が改正され借地の供給が促進されると期待された定期借地権は全く効果がなく、借地人は50年の期限の到来で借地上の建物を取り壊して明渡し義務が発生し新たな問題が予測される。
急増する底地買い、借地人の弱みに付け込む悪質な手口
最近、こうした借地で貸している土地を所有していても「不良資産」となり、相続しても何らの活用もできないと宣伝し、借地の買い取りを申し出る底地買い業者が急増している。これらの不動産業者が地主から買い取る値段は通常の底地価格の3割から1割程度と安く、数十件借地をまとめて買い取るケースが多い。
底地買い業者の手口は、旧地主から手紙で○○不動産に底地を売却したとの一片の通知が借地人宅に送られ、直後に借地人宅を訪問し、今後の地代は借地人宅に毎月集金に来る。地代の集金に来る以上、借地人は業者の面会を拒否することができず、業者からは「私どもは借地をこのまま貸すために買ったのではない。底地を買い取るか、買い取れなければ借地権を売ってほしい」としつこく売買の交渉を迫られる。業者の中にはバブル時に地上げ屋の残党もいて、関西弁で大声でまくしたてられると多くの借地人はノイローゼ状態になり、業者の条件を認めてしまうケースが多い。組合では借地人に対し、業者が集金に来ても「交渉は組合に行って」と交渉は一切しないようアドバイスしている。地代を組合が預かって集金に来させる場合もある。
最近の事例では、借地人が底地の買い取りを拒否すると「貸さないから返せ」と脅迫し、借地人宅を突然に訪問し、面会を拒否しているにもかかわらず玄関のチャイムを何度も鳴らしたり、大声を上げて罵声を浴びせたり、借地人の自宅前に「この土地売予定(借地人付)」との立看板を立てたり、借地人の後を付きまとったりと悪質な追い出し行為が起きている。組合では顧問弁護士を通じて「面談強要禁止」の仮処分申請し、借地人に対し電話や面談の強要明渡しの強要をしないこと等を約束させ和解する事例も生まれている。
東借連では地上げ問題の学習交流会を開催し、底地を業者に買い取られて不安な思いをしている借地人の交流を図り、底地買い業者の悪質な行為にについて国に対して法的な規制を求めて運動していく考えである。
借地人が高齢化する中で、子供がいても借地であるために親と同居しないケースが多く、建物の老朽化が進み借地人が一代限りとなり、空家になる事例も多く、借地権の活用が今後大きな課題となっている。
借家の老朽化と耐震性を理由にした明渡し請求の急増
平成25年の住宅・土地統計調査では、空き家は全国で820万戸と過去最高となった。空き家の内で賃貸用の住宅が429万戸と空家の50%を超えている。賃貸用の空き家が急増する一方で、まだ十分に住むことが可能なアパートやマンションを取り壊して、新しく賃貸住宅に建て替えたり、相続税対策としていつでも売却可能な更地にして、駐車場として貸し出すなどの動きも見える。
東借連に昨年寄せられた借家の相談253件中「明渡し」の相談は110件で43%を占めるなど明渡しの相談が急増している。明渡しの理由は、老朽化と耐震性を理由にするものがほとんどで、「1981年の新耐震基準を満たしていない」、「大地震が起きたら建物の倒壊の危険がある」等と説明している。
また、耐震補強工事をすることは過大な費用がかかると拒否している。
消費税増税の影響で住宅の新規建設が大きく落ち込む中で、賃貸用の住宅の建設は活発になっている。住宅メーカーが開催する相続税対策セミナーには、今年1月からの相続税の増税を心配する資産家に賃貸住宅の建設で借金をして節税することを勧めている。そこでは住宅メーカーが現在居住している借家人の追出しを請け負う事例が多く見られる。そもそも住宅メーカーの社員や不動産業者が家主から依頼されて立ち退きを迫ることは法律行為であり、弁護士法違反に当る。
借家の明渡しには正当事由が必要だが、僅かな立ち退き料で退去させられている
しかし、家主が借家人に対して直接明渡し交渉を行なうことはほとんどなく、管理会社やサブリース会社に丸投げし、明渡しを専門に請け負う業者を使って、家賃の数カ月分の立ち退き料で追い出しを行なっている。
不動産適正取引推進機構の賃貸住宅管理会社に対するアンケート(平成24年6月)のよると、賃貸人の事情による解約申し入れで立ち退き料0円が21.5%、0円~6か月未満が72%で、僅かな立ち退き料で退去させられている。
不動産業者の中には、借家人の法律知識のないことに付け込んで、2年契約の途中で3ヶ月の予告で賃貸借契約を解除したり、「今なら○ヶ月分の立ち退き料を支払うが、期間が満了するまで住み続けるなら無条件で立ち退いてもらう」等巧妙な言い方で借家人に明渡しを同意させ、立退き同意書にサインさせている。
借地借家人組合では、家主の明渡し請求には契約期間の満了する6カ月から1年前に予告すること、期間満了時に明渡しを求める正当事由が必要であり、単に建物の老朽化・耐震性のみで明渡しが認められるわけではなく、
正当な事由のない明渡しに反対している。
高齢単身者の3分の1が借家、深刻な高齢者への入居制限
高齢者のいる世帯が居住する住宅の82・8%が持ち家で、借家が17%を占め持ち家居住が多い一方で、高齢単身世帯では借家の割合が33.9%と3分の1を超えている。
これらの高齢者は老朽化した借家に居住し、劣悪な住環境の中で暮らしている。
兵庫県の借地借家人組合の調査によると、昨年1年間の組合入会者79名中35名44・3%が明渡しの相談で、60代から80代が実に74%を占め、単身者が71%と多い。高齢で単身者の借家居住者が明渡しの問題で借地借家人組合へ助けを求めていることが分かる。
「明渡しを求められても、移転先の家賃が高額で負担できない」、「公営住宅に住みたいが何度も応募しても当選しない」、「高齢者だけで住むというと不動産屋から敬遠される」「息子や娘が近くに住んでいるなどの条件が満たされないと賃貸住宅を斡旋してもらえない」等の高齢居住者の切実な声が上がっている。
東京都が昨年8月に募集した単身者向け住宅の応募倍率は56・8倍、シルバーピアは77・8倍と家族向けの住宅の応募倍率と比較しても異常な倍率であり、高齢者が安心して住み続けられる低家賃住宅が圧倒的に不足している。
民間賃貸住宅に暮らす高齢者の明渡し問題は、経済的な理由だけでなく、環境が変わったり知り合いがいなくなることで、家に引きこもったり、孤独死にもつながる重大な問題である。現在東京都が取りまとめを行なっている「高齢者居住安定確保プラン」においても「民間賃貸住宅においては、高齢者の入居を拒まない住宅や高齢者向け住宅も供給されている一方、単身の高齢者や高齢者のみ世帯は不可とするなどの入居制限が行われている状況が依然として見られます」と指摘している。同プランの基本的な方針では「高齢者の入居の円滑化」では、「民間賃貸住宅について、高齢者が不合理な入居制限を受けることなく、市場を通じて、ニーズに応じた住まいを円滑に確保できるよう、東京シニア円滑入居賃貸住宅の登録の促進などを行います」とあるだけで、具体的な支援策はない。
政府は民間住宅の空家等活用し、改修工事に補助して低廉な賃貸住宅を供給する「住宅確保要配慮者あんしん居住推進事業」が今年度創設され、予算が措置された。1戸当たり50万円(共同住宅用1戸100万円)を限度に工事費用の3分の1が補助されるというが、これらの補助のみではたして低所得者の高齢者が入居できるのか極めて疑問である。家賃を引き下げるには家賃補助などの制度との組み合わせが必要ではないだろうか。
耐震性不足マンションの敷地売却制度の成立で追い出される高齢者
大都市ではマンション居住者が増加し分譲・賃貸のマンション居住は40%を超え、平成24年末現在のストック数約590万戸で、旧耐震基準に基づき建設されたものは約106万戸といわれている。築40年を超えるマンションは20年後には264万戸となる見込みである。老朽化したマンション居住者の高齢化が進み、昭和45年以前のマンションでは高齢者のみ世帯の割合は50・3%を占めている(国土交通省調査)。同時に古いマンションほど借家の割合も増加している。
昨年、地震に対する安全性が確保されていないマンションの建替え等の円滑化を図るために、マンション及び敷地の売却を多数決(5分の4以上)により行うことが可能となるマンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部改正案が国会で可決された。耐震性不足の認定は申請に基づき特定行政庁が行い、デベロッパーである買受人の買受計画(マンションの買受・除去・代替住宅の提供・あっせん)が認定されると、マンション敷地売却決議で買受人であるデベロッパーに売却され、デベロッパーが耐震不足マンションを建替えれば容積率が緩和される仕組みになっている。なお、買受計画の認可は都道府県知事又は市長とされている。複雑な仕組みになっているが、同決議が5分の4以上の区分所有者の賛成で可決されると決議に反対する区分所有者の区分所有権は時価で買い取られる。区分所有者は分配金取得計画に基づき分配金を取得し、借家人は補償金が支払われ借家権が消滅する。同決議が可決すると明渡しの正当事由について争えない。デベロッパーが新たにマンションを建設すれば、再入居も可能となるが、僅かな分配金を取得しても再入居できる居住者は一部に限られることが予想される。老朽化が進み建て替えが困難な分譲マンションが今後デベロッパーに買い取られ、高齢化したマンション居住者と借家人が強制的に追い出される仕組みとなっている。借家人や高齢のマンション居住者の転居先の確保等について、買受人のデベロッパー任せにすることなく、行政がしっかりと関与し居住の安定確保についての支援策を講じることが必要である。以上