https://mainichi.jp/articles/20190617/k00/00m/040/284000c
最大震度6弱を観測した大阪北部地震から18日で1年となった。被災した賃貸住宅では、家主が修繕に応
じなかったり、取り壊しを理由に入居者に退去を迫ったりするケースが相次いでいる。地震から1年を経
ても行くあてがなく、壊れた住宅に住み続ける人も。相談に乗る弁護士は「弱い立場の人に今も影響が深
刻に表れている」と訴える。
大阪府茨木市内の住宅密集地にある木造2階建ての賃貸住宅。被災した壁の亀裂にモルタルを塗った跡
がある。家主が修繕を拒んだため、入居する70代の夫婦が自ら応急措置をしたのだ。
地震から1カ月後の昨年7月、家主に修繕を求めたところ、数日後、「取り壊すので年内に退去してほし
い」と言われた。しかし「年金暮らしの年寄りが新居を借りるのは簡単でない」と妻(71)は話す。「家
賃の手ごろな府営住宅なら」と、抽選に応募したが、落選した。今春、家主から「9月末までに退去しな
いと訴訟も辞さない」との通告がきた。入居して約50年。近所は顔見知りで、2人の子も孫やひ孫を連れ
て帰ってくるなど愛着もあるが、「はよ出なあかんな」と夫婦で話し合っているという。「この1年、胸
のつかえが取れない」と妻は漏らした。
同市の別の木造2階建てアパートでも、パート従業員の男性(56)が退去を迫られている。壁の一部が
崩れ、下水配管が傷んだため敷地内のマンホールから汚物があふれる。
地震から約10日後、「取り壊すことになったので退去をお願いします」との書面が管理会社から届い
た。当時、10部屋中7部屋に入居者がいたが、男性以外は昨年11月までに退去した。男性は「出て行きた
いが、転居先が見つからない」と言う。生活保護を受けており、住宅扶助の限度となる家賃3万9000円以
内の物件を探すが、さらに老朽化したアパートか、狭い部屋しかない。契約に必要な保証人のあてもな
い。
管理会社から最近、「さらに地震があって、建物が壊れて周囲に被害が出たら、あなたに損害賠償を請
求する」と言われた。男性は「どうしていいか分からない」と途方に暮れている。
関西の弁護士らが結成した「地震・台風借家被害対策会議」は昨年10~12月に賃貸住宅入居者の相談電
話を開設し、28件の相談が寄せられた。半数が「家主が修繕してくれない」「立ち退きを求められてい
る」という内容だった。【山本真也】
「地震・台風借家被害対策会議」の増田尚弁護士(46)=大阪弁護士会=の話 借地借家法では退去を
求めるには家主側が6カ月以上前に通告しなければならないが、守られていないケースが多い。そもそも
一部損壊というだけでは退去を迫る正当な事由にあたらず、修繕するのは家主の責任だ。(退去を求める
のは)入居者の生活の基盤である家を単なる収入の手段としてしか見ておらず、家主としての自覚がない
と言わざるを得ない。収入などの理由で次の住まいを見つけられない人が取り残され、地震の影響が深刻
に表れている。