「足を踏み外したら、さようならー♫」とすっかり暗くなった道をヘッドランプの明かりを頼りに歩く。
壊れかけた梯子や崩落した道を集中して通り、19時45分に行者還避難小屋に到着。
避難小屋の前に明かりがあり、人がいる!
「こんばんはー。生きている人間です。」
「こんな時間に来られるなんてびっくりしました!」
「途中、サングラスを落としましたか?」
「そうなんですよ。気付かないうちに落としてしまって。」
ザックからサングラスを出すと、
大喜びをしてくれる。
とにかく急いで水の確保をしたかったので、
「すみません、水場はどこにありますか?」
「それが色々と探したのですが、ないんです。ここ数日の好天で枯れてしまったようです。小屋の中の雨水を溜めているタンクなども確認しましたが、ありませんでした、、、」
「本当ですか!?ネットの情報では、水があると書いてあったのですが、、、」
とりあえず避難小屋に入り、
衣類を替えてこれからどうしようか思案する。
水の残りは緊急脱出用の500mlのみ。
全速力でここまでやってきたために1リットルは一気に飲める状態である。
引き返すか、どこかへエスケープするか。。。
「よければ水、いりませんか?」
「いえいえ、ここでは命の水ですからもらえませんよ」
「私はまだ水に余力がありますから、サングラスの御礼をさせてください!!」
ありがたい申し出を受けて、300mlを分けていただいた。
その水でアルファ米のご飯と焼きビーフンを食べ、超回復用に特別調合したサプリを飲むことができた。
落ち着いて自己紹介をすると、
水を分けてくれたのは、地元在住で44歳の会社員の宇原さん。
週に1度は登山をして、この辺りの地理にもあかるい。2児の父でもあった。
今回は3泊4日か4泊5日を目安に大峯奥駈道に挑戦をしているとのこと。
「ここまでどのくらいかかりましたか?」
「ちょうど11時間です」
「私もちょうど11時間です」
私は2泊3日の行程であったが、
スピードが同じそうなので、
よければ行ける場所まで一緒に行きましょう
という話になり眠りについた。
もしここで水が手に入らなかったらどうしただろうか?
"ある"はずの水がなく、
1人でパニックになっていたかもしれない。
いずれにしても山深い場所で人と出会い、
水を分けてもらえ、
まだ先に進めるチャンスが生まれた。
ずっと助けられている。人生と同じだな。。。
クタクタですぐに眠れるかと思いきや、
脳が興奮状態で全く眠れずに、
身体も水を欲していて全然眠れない。
14歳から24歳まで柔道で減量をしていたので、飢えには比較的慣れている。
久々の感覚に懐かしさを味わいながらも、
いつの間にか弱くなってしまっている自分に活を入れるため必殺技「辛抱・我慢」を唱えるが、
余計に眠れなくなる。
こんな時は羊ならぬゴールド・マンを数えよう、
「ゴールド・マンが1匹、2匹、3匹、、、」
つづく