「よければ2泊3日で一緒に大峯奥駈道を踏破しませんか?」
思い切って宇原さんに提案してみた。
「それ、私も思いました。人生でこんなに一生懸命になって何かを成し遂げようとするのは初かもしれません。山口さんと出逢ったのも何かの縁で、お導きだと思うようになりました。一緒に目指しましょう!」
「明日は夕方くらいには熊野本宮に着きますよ!宿は予約してあります。人数の変更とかもきっとなんとかなりますよ!ご縁に感謝して、流れに身を任せていきましょう!」
4時間先にある行仙の山小屋を変更して、1時間先にある平治の山小屋へ向かう。
18時頃、誰もいない小屋に入り、
志納金2000円を箱に入れて休ませていただく。
「アテテッ、アテテッ、明日また歩けるようになるために、最大限の回復を図りましょう。アテテッ。」
2人で食料を出し合い、
明日食べる分を残し、
あとは食べてしまおうという調理をし、
超回復のために特殊配合したサプリも残り6セットも3セットずつ分けあった。
宇原さんのダメージの残る脚をケアし、回復するように緩めた。
今日の様子から明日のコースタイムと自分たちの能力を客観的に分析して、1時半に起床して2時半に出発。
暗い登山道は私が先頭で直感でどんどん進む。約4時間の睡眠とたくさん食べたことで、驚くほど身体も回復している。
道に悩むとすぐに宇原さんに伝え、すぐさまスマホで位置を確認して方向を指し示し、私が踏み跡や目印を見つけるという分担作業で、暗闇の中、コースタイムを大幅に短縮している。
4時30分過ぎに行仙の山小屋に着くと3名の登山者がいた。
「こんな朝早くにやって来るなんて!何日で奥駈道をしようとしているの?」
「2泊3日です」
「それはスーパーマンみたいなことしているね」
目を見開いて驚いた後に、優しく見守るような眼差しになる年配の登山者たち。
「やりたくてもやれない事をあなたはやってるんだから、私たちの分も背負ってね」
と言って送り出した方々のまなざしと重なってくる。
傘捨山を登り、垂直の上り下りが続く一番の難所、槍ヶ岳と地蔵岳が続く。
急がず慌てずに本日一番の集中をする。
今は鎖があるからまだいいけど、
昔は鎖などなかったことを想像してみる。
修験者とは何者なのだろう。
下りは宇原さんが速く、先行して導いてくれる。
上りは私が前に出て淡々と上っていく。
交互に先頭を代わることでエネルギーを温存しながら進むことができる。
仕事以外で誰かと山に上ることはあまりなかったけど、こんなにも能力が引き出されるとは思いもしなかった。
午前11時近くに予定通り玉置山と玉置神社に到着した。
最後の長めの休憩で食料をほぼ食べ終えて、水を2リットル汲んだ。
ここからは比較的下山が続くはずである。
熊野本宮大社までは約15km。
ゴールが見えてきた!
つづく