ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ブラウン管より愛をこめて ―宇宙人と異邦人― 」

2023-07-20 19:10:24 | 芝居
7月13日シアタートラムで、古川健作「ブラウン管より愛をこめて ―宇宙人と異邦人― 」を見た(劇団チョコレートケーキ公演、演出:日澤雄介)。



1990年、バブル景気に沸く日本。
特撮ヒーローものを制作する会社の企画室。
20代30代の若手クリエイターを中心に番組の脚本会議が行われている。
少年時代、特撮巨大ヒーローのシリーズに熱中した経験のある彼らは、自分たちの仕事が所詮は過去の名作の焼き直しに過ぎないことに
忸怩たるものを感じながらも、半ば先行の名作の後追いになるのは仕方ないとあきらめている。
そこには、本来は大人向けの番組を作りたいという屈折した思いもある。
そんな覇気のない会議の中で、一人の脚本家があるシリーズで放送された異色エピソードを話題にする・・(チラシより)。
ネタバレあります注意!

この劇作家の作品は、これまで歴史上の事件・出来事・人物を扱ったものを見てきたが、これは初めての純然たるフィクション。
今回のテーマは、ズバリ「差別」。
人はなぜ差別するのか。
多数派が少数派を差別しなくなるには、どうすればいいのか。
このテーマを扱うにあたって、テレビの特撮ヒーロー番組を制作する人たちの現場を舞台にするという手法が秀逸。
かつて「ウルトラマン」シリーズの中で、脚本家がメッセージ性の強いものを書いていた。
その史実を元にしたわけだ。
今回、テレビの特撮ヒーロー番組のために、ある脚本家が書いてきたのは、次のような物語だった。

 ある時、一人のカスト星人が地球にやって来る。
 彼の星、カスト星はすでに消滅していた。
 彼は宇宙船の中で生まれた、最後のカスト星人だった。
 彼は地球に居場所を見出そうとするが、異質な者を敏感に嗅ぎ分け、不審がる人々によって不当な扱いを受ける。
 彼の中で悲しみと怒りが湧き上がる。
 一方、地球には人類を守るワンダーマンというのがいて、地球侵略を企んで次々とやって来る宇宙人と戦っていた。
 ワンダーマンは、カスト星人に地球侵略の意図がないことを知り、地球から出ていくように言う。
 だが、カスト星人には帰る星がなかった・・。
 人間たちは、カスト星人に対してますます不信感を募らせ、攻撃的になる。
 彼の怒りと憎しみは増し、自衛のためにも人間たちと戦おうとする。
 実は、カスト星人には大きな力があり、一つの町を焼き尽くして滅ぼすこともできるのだった。
 ワンダーマンは、本来人類のために外敵と戦う存在なのだが、カスト星人と戦う気にはなれず、彼を守ろうとする・・・。

このドラマを放映することについて、スタッフたちは悩み、議論する。
差別については、当然ながら敏感な人と鈍感な人がいる。
歴史を知らない若者は、日本における差別の歴史を調べ始める。
結局、人間は、外見などが自分と違う者を見ると、恐怖を抱く。
そしてその者を排除しようとする。
それが歴史上繰り返されてきた差別だ。
差別する側の人間は、差別された者の痛みを理解できない。

相変わらず骨太な、男たちの群像劇が描かれる。
まずキャスティングがいい。
そこに花を添える女優・森田杏奈(橋本マナミ)がいる。
その上品で趣味のいい衣装(藤田友)もいい。
登場するたびに服を変えるので、目に楽しい。

ただ、時に井上ひさし張りに生硬で直球勝負な言葉が続くことがあり、それが惜しい。
差別という語があまりにも頻出するのも工夫が必要だろう。
それと、特に劇中劇(テレビドラマの撮影シーン)で、次のセリフがわかってしまうことが多いのも惜しい。
だが、ラスト近くの自主練のシーンでは、不覚にも落涙・・・。
関東大震災の時、東京で起きたというおぞましい朝鮮人虐殺を思い出した。

ラストで監督がゲイだとわかるが、これが唐突に感じられた。
ここに LGBTQ の要素を入れたいという作家の気持ちはわかるが。
確かにいくつか伏線はあるが、欲を言えば、もう少し前から触れておいてほしい。
というより、無理して入れる必要はなかったかも。

役者では、カスト星人を演じる男優・井川信平役の伊藤白馬が特に印象に残った。
もちろん岡本篤、浅井伸治、林竜三、緒方晋といった人たちも好演。

現実のシーンとテレビドラマのシーンがうまく組み合わされている。

厳しいことを言うと、主役の脚本家はともかく、その他の登場人物全員が(やはり)ステレオタイプで、
その職業的立場からこう考えるだろう、こう言うだろう、ということを考え、そして口にする。
監督は監督代表、プロデューサーはプロデューサー代表、テレビ局側はテレビ局側代表、というように。
女優・森田杏奈は、小学校の道徳の教科書に出てくる人のよう。
そう、この作品は、それこそ道徳の教科書に採用されたっておかしくないものだ。
つまりは、一人一人の人物像に深みがないということ。
こんなこと書きたくなかったけど、やっぱり書かないわけにはいかない。
題材もいいし、役者たちもいいだけに実に惜しい。
(泣かせてもらったのにキツイことを言ってしまってすみません・・)
わかってもらえるでしょうか。
作者の思いと訴えに対しては、まったく同感なのです。






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