ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「桜の園」

2023-08-17 10:34:25 | 芝居
8月10日パルコ劇場で、アントン・チェーホフ作「桜の園」を見た(翻訳:広田敦郎、演出:ショーン・ホームズ)。






時代の急激な変化が理解できず、先祖代々の美しい領地が抵当に入って、近く競売にかけられようとしているのに、昔の華やかな暮らしを
捨てることができず滅びてゆく貴族階級の人々。そして台頭する新たな若い世代。
チェーホフ最後の作品。

ネタバレあります注意!
舞台中央にどっしりとあるのは四角い鉄の塊。天井から下がる何本もの鎖でつながれている。
幕が開くと鎖が上がり、長方形の部屋が現れる。一段高くなっている。
そこは旧子供部屋。女主人ラネーフスカヤ(原田美枝子)と兄ガーエフ(松尾貴史)も子供の頃そこで遊んだ。
7歳で溺死した息子グリーシャの三輪車。空っぽの本棚。

赤い作業服の男がマイクを持って「チェリー・・」とか歌いながら通り過ぎる。
奥は全部金網のフェンスで囲われている。

ビニールプールに水が張ってある!
ライフル銃を構えた家庭教師シャルロッタ(川上友里)は派手な柄の水着姿で登場!
これには驚いた。
なるほどこれが「斬新な演出」と評判の演出家か。

ロパーヒン(八嶋智人)は、ラネーフスカヤが勝手に養女ワーリャ(安藤玉恵)に「あなたの結婚を決めたのよ!」と言うと、
何か言わないといけない状況に追い詰められ、「オフィーリア、尼寺へ行け・・・とか言いますよね・・」。

おしゃべりで演説好きなガーエフは、時々内ポケットからマイクを取り出してスピーチを始める。
ラスト、いよいよ皆で屋敷を去るという時、またマイクを取り出して胸にこみ上げる思いをひとくさり述べようとすると、
スイッチが切れているのに気がつき、諦めて声を張り上げる。

元家庭教師トロフィーモフ(愛称ペーチャ・成河)は26歳で、「万年大学生」とみんなにからかわれている。
ラネーフスカヤの元に、パリにいる元愛人から連日手紙や電報が来る。
その男は彼女の金で裕福な生活を送り、病気になると彼女に献身的に看病されたが、回復すると別の女の元に去った奴だった。
最初のうち彼女は、手紙が来るたびに破り捨てていたが、そのうち、彼のことを今でも「愛している」と言う。
懲りない女性だ。
彼女は「私、パリに行くべきよね?」とペーチャに尋ねる。
そんなこと、聞かなきゃいいものを。
当然ながら彼は「そいつは泥棒だ!」「あなたからすべてを奪った奴だ!」みたいなことを言う。
誰だってそう言うだろう。
するとラネーフスカヤは一瞬ひるむが、すぐに態勢を立て直し、反撃を開始する。
そこが面白い。
この芝居の見どころの一つだ。
「そういうあなたはどうなの?!26歳にもなって女性とおつき合いしたこともないなんて。
人を愛したことがないんでしょう・・」
男はさすがに怒って立ち去るが、夫人はすぐに謝り、「冗談よ」と呼び戻しに行く。
そして男もまた気を取り直して夫人と踊り出す。
どちらも何だか軽いが、見ている方としてはホッとする。

この翻訳ではロパーヒンの父親も祖父も「百姓だった」と言われるが、より正確には「農奴」だろう。
(神西清訳では「親父も祖父さんも奴隷だった」)
かつての農奴の息子が(農奴解放令を経て)商人となり、日夜がむしゃらに働いて金をため、お屋敷を買い取って大地主になったのだから、
天地がひっくり返ったようなものだろう。

この成り上がり者のロパーヒンを演じた八嶋智人がうまい。
今までに4人くらいのロパーヒンを見たが、断トツにうまい。
最初は早口なこともあり、セリフが聞き取れない所もあったが、ラスト、ついに桜の園を手に入れてからが実にいい。
ラネーフスカヤの兄ガーエフ役の松尾貴史も好演。


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