11月30日東京芸術劇場シアターウェストで、永井愛作・演出の「鷗外の怪談」を見た。
2014年初演の作品。ネタバレあります注意!
1910年の大逆事件をめぐり、明治天皇暗殺を企てたとされる被告たちの弁護側と、被告を処刑したいと考える政府側の双方の相談に乗り、板挟みとなる
文豪、森鷗外。一方、家庭内では妻と実母の間に立って右往左往する家長という意外な姿があった。
森林太郎・鷗外を演じるのは松尾貴史。家族は7か月の身重の妻しげ(瀬戸さおり)、母・森峰(木野花)、先妻の産んだ長男(この時すでに大学生)、
それに幼い娘たち。
この家に出入りするのは「すばる」の編集者で弁護士の平出修(渕野右登)、「三田文学」の編集長・永井荷風(味方良介)、賀古鶴所(池田成志)ら。
平出修は大逆事件の弁護士の一人となり、裁判の件で鷗外に相談する。
永井荷風は鷗外の紹介で慶応義塾大学文学部教授となったという縁。だがいつも、どこかの芸者にうつつを抜かしている。
賀古鶴所は、かつて鷗外と軍医として同僚だった。森家は代々続いた軍医の家柄で、鷗外は母と彼に勧められて軍医となった。
評者の知らなかった事実が多くて興味深い。二度目の妻しげは、元々文学少女で鷗外の小説を愛読していたとか、彼女もバツイチだったとか、鷗外に勧められて、しげも
小説を書き始め、しかも文芸雑誌に連載されて好評だったとか。18歳も年下なので、鷗外はこの人を時に子供のように扱う。
また、時の元老・山縣有朋の私的諮問機関のメンバーに、大臣や学者らと共に鷗外と賀古鶴所も加わっており、大逆事件の処理方針についてもここで検討された
可能性が高いという。だからこそ、鷗外は事件の判決について自らの責任を感じないわけにはいかなかった。
大逆事件の判決が下り、24名の死刑が決まったと知らされた後、鷗外と賀古鶴所とは緊迫したやり取りを繰り広げる。
賀古は政府側の意向を代弁すると共に、親友として鷗外と森家の今後のことを心配するが、鷗外は政府側の真の目的を見透かし、初めから死刑という結論ありきの
秘密裁判を認めるわけにはいかない。権力の危険な暴走を止めようとし、ただ真実のみに忠実であろうとする。よく練られた論戦に興趣が尽きない。
ある時、Verräter(裏切り者)! というエリーゼの声が鷗外の脳内に響き渡る。前後関係から何とか推測できるが、日本語の字幕があれば親切だろう。
鷗外の母役の木野花が大活躍。古い価値観の代弁者だが、安定した演技で楽しい。
永井荷風役の味方良介が面白い。演技にも切れがある。この人の名前は覚えておこうと思った。
妻しげ役の瀬戸さおりも、若く生命力溢れる妻を生き生きと演じて魅了する。
百年も昔の話だが、時代は変わったと言えるのだろうか。昨今の日本の政治状況を見ると、権力というものは常に監視していないと、いつの間にか我々国民を
とんでもないところに連れて行ってしまうものだと痛感する。そのことを決して忘れまいと思う。
この作品は永井愛の代表作のひとつで、芸術選奨文部科学大臣賞など数々の賞に輝いた作品というのも納得できる。
密度の濃い芝居と達者な役者さんたちの演技を楽しむことができた。
2014年初演の作品。ネタバレあります注意!
1910年の大逆事件をめぐり、明治天皇暗殺を企てたとされる被告たちの弁護側と、被告を処刑したいと考える政府側の双方の相談に乗り、板挟みとなる
文豪、森鷗外。一方、家庭内では妻と実母の間に立って右往左往する家長という意外な姿があった。
森林太郎・鷗外を演じるのは松尾貴史。家族は7か月の身重の妻しげ(瀬戸さおり)、母・森峰(木野花)、先妻の産んだ長男(この時すでに大学生)、
それに幼い娘たち。
この家に出入りするのは「すばる」の編集者で弁護士の平出修(渕野右登)、「三田文学」の編集長・永井荷風(味方良介)、賀古鶴所(池田成志)ら。
平出修は大逆事件の弁護士の一人となり、裁判の件で鷗外に相談する。
永井荷風は鷗外の紹介で慶応義塾大学文学部教授となったという縁。だがいつも、どこかの芸者にうつつを抜かしている。
賀古鶴所は、かつて鷗外と軍医として同僚だった。森家は代々続いた軍医の家柄で、鷗外は母と彼に勧められて軍医となった。
評者の知らなかった事実が多くて興味深い。二度目の妻しげは、元々文学少女で鷗外の小説を愛読していたとか、彼女もバツイチだったとか、鷗外に勧められて、しげも
小説を書き始め、しかも文芸雑誌に連載されて好評だったとか。18歳も年下なので、鷗外はこの人を時に子供のように扱う。
また、時の元老・山縣有朋の私的諮問機関のメンバーに、大臣や学者らと共に鷗外と賀古鶴所も加わっており、大逆事件の処理方針についてもここで検討された
可能性が高いという。だからこそ、鷗外は事件の判決について自らの責任を感じないわけにはいかなかった。
大逆事件の判決が下り、24名の死刑が決まったと知らされた後、鷗外と賀古鶴所とは緊迫したやり取りを繰り広げる。
賀古は政府側の意向を代弁すると共に、親友として鷗外と森家の今後のことを心配するが、鷗外は政府側の真の目的を見透かし、初めから死刑という結論ありきの
秘密裁判を認めるわけにはいかない。権力の危険な暴走を止めようとし、ただ真実のみに忠実であろうとする。よく練られた論戦に興趣が尽きない。
ある時、Verräter(裏切り者)! というエリーゼの声が鷗外の脳内に響き渡る。前後関係から何とか推測できるが、日本語の字幕があれば親切だろう。
鷗外の母役の木野花が大活躍。古い価値観の代弁者だが、安定した演技で楽しい。
永井荷風役の味方良介が面白い。演技にも切れがある。この人の名前は覚えておこうと思った。
妻しげ役の瀬戸さおりも、若く生命力溢れる妻を生き生きと演じて魅了する。
百年も昔の話だが、時代は変わったと言えるのだろうか。昨今の日本の政治状況を見ると、権力というものは常に監視していないと、いつの間にか我々国民を
とんでもないところに連れて行ってしまうものだと痛感する。そのことを決して忘れまいと思う。
この作品は永井愛の代表作のひとつで、芸術選奨文部科学大臣賞など数々の賞に輝いた作品というのも納得できる。
密度の濃い芝居と達者な役者さんたちの演技を楽しむことができた。
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