ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「あわれ彼女は娼婦」

2016-08-16 22:53:22 | 芝居
6月21日新国立劇場中劇場で、ジョン・フォード作「あわれ彼女は娼婦」をみた(演出:栗山民也)。

中世イタリア、パルマ。勉学に優れ、人格的にも非の打ちどころがないと将来を嘱望されるジョヴァンニ(浦井健治)は、尊敬する老修道士に、
類まれな美貌の妹アナベラ(蒼井優)を女性として愛していると告白し、修道士の忠告も聞かずにアナベラに気持ちを伝えてしまう。
愛するがゆえに、ついに道ならぬ恋に身を委ねる二人。兄妹の運命はいかに・・・。

この作品は2013年4月に演劇集団円の公演で初めて見た(演出:立川三貴)。
ものすごくインパクトのある作品で、しかも役者たちも熱演だったので脳裏に焼きついている。

今回は、マリンバの生演奏付き。
舞台斜めに大きく赤い十字の道(美術:松井るみ)。あとは黒。
円の舞台も同様だった。この作品に合う色は赤と黒しかない。情熱と血、そして死だ。

翻訳は小田島雄志。 
ジョバンニは神父にファーザーと呼びかける。
ジョバンニは妹アナベラが自分と同じ気持ちと知ると「神々よ」と言う・・・!?

アナベラの妊娠が運命の分かれ目。それまでは乳母もノーテンキに喜び、祝福していたが、さすがにその時を境に3人共天国から地獄へ。
だが、そうなることくらいフツー想像できるだろうに。恥を隠すために娘は父の持ってきた結婚話を承諾するが、その代わり、今度は
彼女の体調から貞操を疑った夫ソランゾから虐待される羽目に。
そこに、彼女の3人の求婚者たち、そのうち夫となるソランゾの元カノ・ヒポリタ、彼女の死んだはずの夫、等等が愛憎と欲望むき出しで
絡んでくる。実に見応えのある作品だ。

これは1620年頃、つまりシェイクスピアの死後数年たった頃書かれた作品。当時避妊具さえあったならこんなことにはならなかった
だろうに。いや、プラトニックで留めておけば・・・とも言えるが。

仮面舞踏の音楽がモダンでかっこいい。
ヒポリタは死の間際に呪いの言葉を残していく。新婚の夫婦に争いが絶えぬように、アナベラが私生児を産むように・・・(!)と。これが
実に面白い。

夫ソランゾ役の伊礼彼方がうまい。
アナベラ役の蒼井優は期待通り美しく、今回特に低めに抑えた声もよく通る。
求婚者の一人でおバカのバーケット役は浅野雅博!!これはアッと驚く配役(この人は評者にとって、ロゼギルとかだから)だが、当人は
楽しそうに演じていた。
ソランゾの召使バスケス役の横田栄司は、ズバリはまり役。頭が切れて度胸はあるは、色気はあるは、しかも物語の進展に深く関わるという
おいしい役だ。
ジョヴァンニ役の浦井健治は前半はいいが、後半、アナベラを殺した後がいけない。彼の解釈では、愛するアナベラを自ら手にかけた後は
腑抜けのように力が失せるということなのだろうが、果たしてそうだろうか。まだこの後、憎い恋敵たるソランゾを殺す力が残っている
のだから。かつて見た「ヘンリー六世」の時の彼を思い出した。「シンベリン」での若き王子役や、鈴木杏との二人芝居での青年役など
はよかったから、この人は深刻で重たい作品には向いてないのかも知れない。

バスケスに、人んちの乳母を監禁させたり、その目をくり抜かせたりする権限があるのだろうか。
バーケットが人違いで殺された後、事件がうやむやにされると、彼の父が「正義はないのか?」以降すっかり諦めきった口調で話すが、
それは早過ぎる。もっと激しい憤りを見たい。悟ったような穏やかな心境になるのは一ヶ月くらいたってからでもいいではないか。

ロミジュリには4人の親がいたが、ここでは1人の父親がすべてを背負わねばならない。ショックのあまり即死するのも無理もない。
この作品はよくロミジュリと比較されるが、乳母の存在、親に強いられた結婚など似たところはあるものの、二人を兄妹とした設定が
そもそも大きな違いだ。しかもおぞましや、女は妊娠するし、男は女の夫を殺すし、どんどん観客が感情移入しにくい方向へと向かってゆく。
ロミオはジュリエットの夫パリスを殺すが、それは正当防衛だし、ロミオには誰をも傷つける意図はない。
ここでは相手が実の妹ゆえに、男にはしまいに女を殺す以外に道がなくなる。まったくブラディな芝居だ。
当時の英国社会の状況を反映しているらしい。







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