元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「壁の向こうのあなた」

2024-05-05 06:08:23 | 映画の感想(か行)
 (原題:PARED CON PARED )2024年4月よりNetflixから配信された、スペイン製のラブコメ編。この手の映画にありがちの、有り得ない設定と現実離れした筋書きが横溢して、そのあたりは苦笑するしかないのだが、どうしても嫌いにはなれない作品だ。それは憎めないキャラクターばかりが出てくること、そして観る者の感情を逆撫でするような苦々しいモチーフが見当たらないことだ。ロマコメとしての立場をわきまえた上で、好感触に徹している。その割り切り方が良い。

 ピアニスト志望のヴァレンティナは、マドリードの下町でアパートを借りて練習に励みつつ、昼はカフェでバイトしながら生活費を工面していた。ところが隣の部屋にいたのが、ほぼ引きこもりの男性ゲームデザイナーのデイヴィッド。しかも、両者を隔てる壁は限りなく薄く、ゲーム用の効果音を作成するための爆音が遠慮会釈無くヴァレンティナの生活を圧迫する。何でもアパートの所有形式がイレギュラーで、2つの部屋は別物件扱いであるため改善工事は不可らしい。ヴァレンティナは閉口しながらも、壁越しにデイヴィッドと話し合いつつ、事態を打開しようとする。



 通常、困った隣人がいたならば直接談判するか不動産屋に掛け合うのが筋なのだが、何かと理由を並べてこの2人が顔を合わせることは無い。また、デイヴィッドが意外と良い奴だと知った彼女が、別の男を彼だと勘違いして仲良くなろうとしたりと、随分と無理な展開が目に付く。しかしながら、この2人はとことん人生に前向きで、彼らを取り巻く面子もナイスなキャラクターばかりだ。

 ヴァレンティナの従姉のカルメンや、カフェの店長シーバス、果ては元カレのオスカーでさえヒロインをサポートする。デイヴィッドにもナチョという頼りになる友人がいて、何かと気に掛けてくれる。それらがまったくワザとらしくなく配置されているので、観ていて気分が良い。物語の最後は、まあ収まるところに収まるのだが、監督のパトリシア・フォントの腕前は手堅く、無理なく話をまとめている。

 ヴァレンティナに扮するアイタナ・オカーニャは人気歌手らしいが、ピアノの腕前はともかく(笑)、終盤に披露する歌声には聴き入ってしまった。とびきりの美人ではないものの、表情が豊かでチャーミングだ。デイヴィッド役のフェルナンド・ワヤールも絵に描いたような好漢。この2人ならば恋仲になってもおかしくないと思わせる。ナタリア・ロドリゲスにアダム・イェジェルスキ、パコ・トウス、ミゲル・アンヘル・ムニョスといった脇のキャストも万全だ。マドリードの明るくカラフルな町並みをとらえた映像も、観ていて楽しい。
コメント
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