09.5/15 387回
三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】その(15)
そんな折に、今は太政大臣となられた雲井の雁の父君が、宮中からのお帰りに、三条邸の紅葉の美しさにふと目を留められて、お立ち寄りになります。
「昔おはさいし御有様にも、をさをさ変わることなく、あたりあたりおとなしくて住まひ給へるさま、はなやかなるを見給ふにつけても、いとものあはれに思さる」
――母君の大宮がおいでになっていた当時にもほとんど変わらず、どこもかしこもまことに穏やかに住みならされて、華やかに暮らしていらっしゃるご様子をご覧になるにつけても、大臣はしみじみとあわれ深く思われます――
夕霧の思い出に浸って感慨無量のご様子は、限りもなくお綺麗ですが、
「女はまた、かかる容貌の類もなどかなからむと見え給へり」
――雲井の雁の方は、これくらいのご容貌なら他にもありそうに見えます――
まあ、とにかくお似合いのご夫婦でしょう。
側に侍っている老女房たちも、ご主人方のお前に時を得て、得意になって昔話をしております。大臣は若い二人の歌をご覧になって涙ぐまれ、歌を、
「そのかみの老木はうべも朽ちぬらむ植ゑし小松も苔生ひにけり」
――昔の老木(大宮)が朽ちられたのも無理はない。その植えた小松(大臣)さえ、苔が生えるほど老いてしまったのだから――
夕霧付きの宰相の乳母は、大臣が夕霧に辛く当られたことを忘れずにおりましたので、したり顔に、歌、
「いづれをも陰とぞたのむ二葉よりねざし交せる松のすゑずゑ」
――私はお小さい時から仲良く育たれたお二人を、これからも頼りに生きていきます――
老いた女房たちも、みなこのような意味の歌をお詠みしていますのを、夕霧は趣深くお聞きになり、女君は顔を赤らめて困っていらっしゃる。
◆写真:雲井の雁 風俗博物館
衣装は婚礼のときの衣裳
三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】その(15)
そんな折に、今は太政大臣となられた雲井の雁の父君が、宮中からのお帰りに、三条邸の紅葉の美しさにふと目を留められて、お立ち寄りになります。
「昔おはさいし御有様にも、をさをさ変わることなく、あたりあたりおとなしくて住まひ給へるさま、はなやかなるを見給ふにつけても、いとものあはれに思さる」
――母君の大宮がおいでになっていた当時にもほとんど変わらず、どこもかしこもまことに穏やかに住みならされて、華やかに暮らしていらっしゃるご様子をご覧になるにつけても、大臣はしみじみとあわれ深く思われます――
夕霧の思い出に浸って感慨無量のご様子は、限りもなくお綺麗ですが、
「女はまた、かかる容貌の類もなどかなからむと見え給へり」
――雲井の雁の方は、これくらいのご容貌なら他にもありそうに見えます――
まあ、とにかくお似合いのご夫婦でしょう。
側に侍っている老女房たちも、ご主人方のお前に時を得て、得意になって昔話をしております。大臣は若い二人の歌をご覧になって涙ぐまれ、歌を、
「そのかみの老木はうべも朽ちぬらむ植ゑし小松も苔生ひにけり」
――昔の老木(大宮)が朽ちられたのも無理はない。その植えた小松(大臣)さえ、苔が生えるほど老いてしまったのだから――
夕霧付きの宰相の乳母は、大臣が夕霧に辛く当られたことを忘れずにおりましたので、したり顔に、歌、
「いづれをも陰とぞたのむ二葉よりねざし交せる松のすゑずゑ」
――私はお小さい時から仲良く育たれたお二人を、これからも頼りに生きていきます――
老いた女房たちも、みなこのような意味の歌をお詠みしていますのを、夕霧は趣深くお聞きになり、女君は顔を赤らめて困っていらっしゃる。
◆写真:雲井の雁 風俗博物館
衣装は婚礼のときの衣裳