09.5/26 398回
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(7)
(夕霧の好ましい様子をご覧になりながら)朱雀院は、
「太政大臣のわたりに、今は住みつかれにたりとな。年頃心得ぬさまに聞きしが、いとほしかりしを、耳やすきものから、さすがに妬たく思ふことこそあれ」
――あなたは、今は太政大臣家の婿君になられたそうですね。年来妙な具合だったように聞いて気の毒でしたが、今は安心のようですが、(私には)しかし残念に思うことがあるんですよ――
夕霧は、どのようなお積りでおっしゃっるのかと、思いめぐらして、そういえば、
「この姫君をかく思しあつかひて、さるべきひとあらばあづけて、心安くよをも思ひ離ればや、となむ思し宣はする、と、おのづから漏り聞き給ふ便りありければ、さやうの筋にやとは思ひぬれど、」
――朱雀院は女三宮をご案じになって、適当な人があったらそれに預け、安心して出家もしたいとのお望みであると、自然と漏れ聞くついでもありましたので、夕霧はそういう意味なのかとは思いましたが――
咄嗟に、いかにも心得た風にお答でできることでしょうか、
「はかばかしくも侍らぬ身には、寄るべも侍ひ難くのみなむ」
――いっこうに取柄どころもございません身には、なかなか頃合いの縁とてもございませんで――
と、申上げるだけになさった。
女房たちは覗き見をして、夕霧のご容貌やお人柄を褒めておりますと、昔を知っている老女房たちは、
「いで然りとも、かの院のかばかりにおはせし御有様には、え准ひ聞こえ給はざめり。いと目もあやにこそ清らにものし給ひしか」
――さあ、それでも、源氏の君のあの御年頃のご様子には、較べものになりますまい。本当に、もう眩しいほどお美しかったのですもの――
ではまた。
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(7)
(夕霧の好ましい様子をご覧になりながら)朱雀院は、
「太政大臣のわたりに、今は住みつかれにたりとな。年頃心得ぬさまに聞きしが、いとほしかりしを、耳やすきものから、さすがに妬たく思ふことこそあれ」
――あなたは、今は太政大臣家の婿君になられたそうですね。年来妙な具合だったように聞いて気の毒でしたが、今は安心のようですが、(私には)しかし残念に思うことがあるんですよ――
夕霧は、どのようなお積りでおっしゃっるのかと、思いめぐらして、そういえば、
「この姫君をかく思しあつかひて、さるべきひとあらばあづけて、心安くよをも思ひ離ればや、となむ思し宣はする、と、おのづから漏り聞き給ふ便りありければ、さやうの筋にやとは思ひぬれど、」
――朱雀院は女三宮をご案じになって、適当な人があったらそれに預け、安心して出家もしたいとのお望みであると、自然と漏れ聞くついでもありましたので、夕霧はそういう意味なのかとは思いましたが――
咄嗟に、いかにも心得た風にお答でできることでしょうか、
「はかばかしくも侍らぬ身には、寄るべも侍ひ難くのみなむ」
――いっこうに取柄どころもございません身には、なかなか頃合いの縁とてもございませんで――
と、申上げるだけになさった。
女房たちは覗き見をして、夕霧のご容貌やお人柄を褒めておりますと、昔を知っている老女房たちは、
「いで然りとも、かの院のかばかりにおはせし御有様には、え准ひ聞こえ給はざめり。いと目もあやにこそ清らにものし給ひしか」
――さあ、それでも、源氏の君のあの御年頃のご様子には、較べものになりますまい。本当に、もう眩しいほどお美しかったのですもの――
ではまた。