永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(812)

2010年08月29日 | Weblog
2010.8/29  812

四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(31)

 姫君たちは、

「御髪などおろい給うてける、さる方にておはしまさましかば、かやうに通ひ参る人も、おのづから繁からまし。いかにあはれに心細くとも、あひ見奉ること絶えて止まましやは」
――父君が御髪をおろされて出家されてしまわれても、生きていてくださったなら、このように尋ねてくる人も、自然に多かったでしょう。出家されて別れ別れに住む事になって心細くても、お目にかかることがなくなってしまう筈はなかったでしょうに――

 などと語り合っていらっしゃいます。大君の歌、

「君なくて岩のかけ道絶えしより松の雪をもなにとかは見る」
――父君がお亡くなりになって、山寺への険しい道の往復が絶えてしまいました。あなたはあの松の雪をどうご覧になりますか――

 と、中の君へ問いかけられて、中の君の歌、

「奥山の松葉につもる雪とだに消えにし人をおもはましかが」
――奥山の松葉に積もる雪は消えても又降り積もります。亡き父君もせめてそう思ってよろしいなら嬉しいでしょうに――

 消えて帰らぬ父宮ですのに、雪は羨ましくも後から後から降ってくるのでした。

 薫は、新年になると多忙で急にも宇治をご訪問申せまいとお思いになって、暮れの内にお出かけになりました。

「雪もいと所せきに、よろしき人だに見えずなりにたるを、なのめならぬけはひして、軽らかにものし給へる心ばへの、浅うはあらず思ひ知られ給へば、例よりは見入れて、御座などひきつくろはせ給ふ」
――雪がたいそう深く、一通りの身分の人でも訪ねて来られなくなりましたのに、薫中納言が並々ならぬ感じで気軽にお訪ねくださった御厚意が、姫君たちには浅からぬ御志
とお分かりになりますので、いつもよりお心を込めてお席などを用意させます――

◆写真:冬景色

では8/31に。