2010.10/9 833
四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(10)
大君は、
「ものむつかしくて、しのびて人めせど、おどろかず。『心地のかきみだりなやましく侍るを、ためらひて、暁がたにもまたきこえむ』とて、入り給ひなむとするけしきなり」
――大君は気味悪くなられて、そっと侍女をお呼びになりますが、まったく起きてもきません。(大君は、薫に)「今夜はとても気分が悪うございますので、休養いたしましてから、明日の朝にでもまたご対面いたしましょう」とおっしゃって、奥にお入りになるご様子です――
薫は、
「『山路わけ侍りつる人は、ましていと苦しけれど、かくきこえうけたまはるは、なぐさめてこそ侍れ。うち棄てて入らせ給ひなば、いと心細からむ』とて、屏風をやをら押しあけて入り給ひぬ」
――「山路を踏み分けて参りました私は、あなた以上にひどく苦しいのですが、こうしてお話していることで慰められているのです。それを無下にもうち棄てて奥に行かれるならば、どんなにか残念でしょう」とおっしゃるや、屏風をやおら押し開けて、こちらのお部屋へお入りになります――
「いとむくつけくて、半ばかり入り給へるに、引きとどめられて、いみじくねたく心憂ければ、『へだてなきとは、かかるをやいふらむ。めずらかなるわざかな』とあばめ給へるさまのいよいよをかしければ」
――(大君は)たいそう気味が悪くて、半分ほど奥に入られたところを引きとめられて、ひどく憎らしく口惜しく「あなたがいつもおっしゃっている、隔てなく、というのはこういうことなのですか。妙なご態度ですこと」と、たしなめられるそのご様子のなまめかしさに、いっそう薫は気持ちをかきたてられて――
大君のお着物の裾を握っておられます。
◆いとむくつけく=いと(はなはだしいことを示す語。たいそう、ひどく)むくつけし(恐ろしい、気味がわるい)
◆写真:大殿油(おおとなぶら)=燈火
では10/11に。
四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(10)
大君は、
「ものむつかしくて、しのびて人めせど、おどろかず。『心地のかきみだりなやましく侍るを、ためらひて、暁がたにもまたきこえむ』とて、入り給ひなむとするけしきなり」
――大君は気味悪くなられて、そっと侍女をお呼びになりますが、まったく起きてもきません。(大君は、薫に)「今夜はとても気分が悪うございますので、休養いたしましてから、明日の朝にでもまたご対面いたしましょう」とおっしゃって、奥にお入りになるご様子です――
薫は、
「『山路わけ侍りつる人は、ましていと苦しけれど、かくきこえうけたまはるは、なぐさめてこそ侍れ。うち棄てて入らせ給ひなば、いと心細からむ』とて、屏風をやをら押しあけて入り給ひぬ」
――「山路を踏み分けて参りました私は、あなた以上にひどく苦しいのですが、こうしてお話していることで慰められているのです。それを無下にもうち棄てて奥に行かれるならば、どんなにか残念でしょう」とおっしゃるや、屏風をやおら押し開けて、こちらのお部屋へお入りになります――
「いとむくつけくて、半ばかり入り給へるに、引きとどめられて、いみじくねたく心憂ければ、『へだてなきとは、かかるをやいふらむ。めずらかなるわざかな』とあばめ給へるさまのいよいよをかしければ」
――(大君は)たいそう気味が悪くて、半分ほど奥に入られたところを引きとめられて、ひどく憎らしく口惜しく「あなたがいつもおっしゃっている、隔てなく、というのはこういうことなのですか。妙なご態度ですこと」と、たしなめられるそのご様子のなまめかしさに、いっそう薫は気持ちをかきたてられて――
大君のお着物の裾を握っておられます。
◆いとむくつけく=いと(はなはだしいことを示す語。たいそう、ひどく)むくつけし(恐ろしい、気味がわるい)
◆写真:大殿油(おおとなぶら)=燈火
では10/11に。