永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(842)

2010年10月27日 | Weblog
2010.10/27  842

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(19)

 大君は、つづけて、

「げにさのみ、やうのものと過ぐし給はむも、明け暮るる月日にそへても、御事をのみこそ、あたらしく心ぐるしく悲しきものに思ひ聞こゆるを、君だに世の常にもてなし給ひて、かかる身のありさまもおもだたしく、なぐさむばかり見たてまつりなさばや」
――そうは言いましても、このように二人がこのまま独身で埋もれていくのはどうしたものでしょう。こうして月日を重ねるにつけ、私はともかく、あなたの御身が惜しく、お気の毒に思えてなりません。せめてあなただけは世間並みに縁組なさってください。それでこそ不甲斐ない私の面目も立つでしょう。私も心の重荷をおろして、晴れ晴れとあなたをお見上げできるでしょう――

 とおっしゃるので、中の君は姉君がどうお考えなのかと、

「一ところをのみやは、さて世に果て給へとはきこえ給ひけむ。はかばかしくもあらぬ身のうしろめたさは、数そひたるやうにこそおぼされたまりしか。心細き御なぐさめには、かく朝夕に見たてまつるより、いかなる方にか」
――(お父上は)お一人だけそのまま一人身で過ごしなさいとおっしゃったでしょうか。しっかりしていないということでは、私の方が余計ご心配をおかけしていたのではないでしょうか。心細い山住みのおなぐさめには、こうして朝夕ご一緒に暮らすより外に
どんな方法があるでしょう――

 と、何やら恨めしそうにおっしゃるので、大君も無理もないこと、お労しいとご覧になって、

「なほこれかれ、うたてひがひがしきものに、言ひ思ふべかめるにつけて、思ひみだれ侍るぞや」
――それでもやはり侍女のだれかれが、私を変わり者と思い、口にも出すらしいので、
そんな素振りを見たり聞いたりしますと、つい思い乱れてしまいましてね――

 と、言いさして、口をつぐんでしまわれました。
日が暮れかかっても、薫は一向にお帰りになる様子がありません。大君はまったく煩わしいことと困っていらっしゃる。

「弁まゐりて、御消息どもきこえ伝へて、うらみ給ふをことわりなるよしを、つぶつぶときこゆれば」
――(大君のところへ)弁の君が参上して、薫のご挨拶をお取り次ぎ申して、姫君をお恨み申される理由をいちいち詳しく申し上げますので――

 大君はお返事もされず、ほっと溜息を洩らされるのでした。

では10/29に。