2010.10/23 840
四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(17)
中の君の濃鈍色の喪服から薄鈍色のご衣裳にお替えになったお姿は、今が盛りの若さでもあり、たいそう美しくなまめいて見えます。大君は中の君に髪など洗いお手入れさせてご覧になるにつけても、心ひそかに薫と結婚を進めても見劣りはしない筈と、今では他に中の君のお世話を託する人もいませんので、大君はご自分が親の気持ちで世話をしてお上げになります。
一方薫は、
「かの人は、つつみきこえ給ひし藤の衣も、改め給へらむなが月も、しづごころなくて、またおはしたり。例のやうに聞こえむ」
――かの人(薫)は、それを口実に求愛を拒まれた喪服も、常の御衣に替えられるはずの九月も待ち切れず、宇治にお出でになりました。以前のように、またお目にかかりたい――
と、ご挨拶申されますが、大君は、
「心あやまりして、わづらはしくおぼゆれば」
――具合わるくいたしまして、大儀ですので――
と、お断りなさって、ご対面されません。薫は、
「おもひのほかに心憂き御こころかな。人もいかに思ひ侍らむ」
――随分意外なご態度で心外です。侍女たちもきっと変に思うでしょう――
と、御文にて申されます。大君もお返事に、
「今はとて脱ぎ侍りし程のまどひに、なかなか沈み侍りてなむえきこえぬ」
――今は限りと喪服を脱ぎました現在の歎きから、却って気持ちが沈んでおりまして、とてもお返事など申し上げられません――
と、ありました。薫は恨みわびて、例の弁の君をお呼びになり、いろいろとご相談になります。
「この君をのみ頼みきこえたる人々なれば、おもひにかなひ給ひて、世の常のすみかにうつろひなどし給はむを、いとめでたかるべき事に言ひあはせて、ただ入れたてまつらむと、皆かたらひあはせけり」
――薫だけをお頼りしている侍女たちなので、大君が自分たちの望みどおり薫に縁付かれて、人並みに京のお住いに移られることを、何より結構なことと話し合って、いっそのこと薫を大君のお部屋にお入れしてしまおうと、皆が話を決めてしまいました――
では10/25に。
四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(17)
中の君の濃鈍色の喪服から薄鈍色のご衣裳にお替えになったお姿は、今が盛りの若さでもあり、たいそう美しくなまめいて見えます。大君は中の君に髪など洗いお手入れさせてご覧になるにつけても、心ひそかに薫と結婚を進めても見劣りはしない筈と、今では他に中の君のお世話を託する人もいませんので、大君はご自分が親の気持ちで世話をしてお上げになります。
一方薫は、
「かの人は、つつみきこえ給ひし藤の衣も、改め給へらむなが月も、しづごころなくて、またおはしたり。例のやうに聞こえむ」
――かの人(薫)は、それを口実に求愛を拒まれた喪服も、常の御衣に替えられるはずの九月も待ち切れず、宇治にお出でになりました。以前のように、またお目にかかりたい――
と、ご挨拶申されますが、大君は、
「心あやまりして、わづらはしくおぼゆれば」
――具合わるくいたしまして、大儀ですので――
と、お断りなさって、ご対面されません。薫は、
「おもひのほかに心憂き御こころかな。人もいかに思ひ侍らむ」
――随分意外なご態度で心外です。侍女たちもきっと変に思うでしょう――
と、御文にて申されます。大君もお返事に、
「今はとて脱ぎ侍りし程のまどひに、なかなか沈み侍りてなむえきこえぬ」
――今は限りと喪服を脱ぎました現在の歎きから、却って気持ちが沈んでおりまして、とてもお返事など申し上げられません――
と、ありました。薫は恨みわびて、例の弁の君をお呼びになり、いろいろとご相談になります。
「この君をのみ頼みきこえたる人々なれば、おもひにかなひ給ひて、世の常のすみかにうつろひなどし給はむを、いとめでたかるべき事に言ひあはせて、ただ入れたてまつらむと、皆かたらひあはせけり」
――薫だけをお頼りしている侍女たちなので、大君が自分たちの望みどおり薫に縁付かれて、人並みに京のお住いに移られることを、何より結構なことと話し合って、いっそのこと薫を大君のお部屋にお入れしてしまおうと、皆が話を決めてしまいました――
では10/25に。