永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1153)

2012年09月13日 | Weblog
2012. 9/13    1153

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その61

「さて、あるまじきさまにて、おはしたらむに、今ひとたびものをもえ聞こえず、おぼつかなくて返したてまつらむことよ、また時の間にても、いかでかここには寄せたてまつらむとする、かひなくうらみて帰り給はむさまなどを思ひやるに、例の、おもかげ離れず、堪へず悲しくて、この御文を顔におし当てて、しばしはつつめども、いといみじく泣き給ふ」
――そのようにしてお姿をやつして匂宮がお出でになりましょうが、こう守りが厳しくては、もう一度お話申し上げることもできず、お目にもかかれずにお返し申すことになりましょう。と言って、ほんの一時でも、ここにお通し申す事などどうしてできましょう。お出でになった甲斐も無いと、お恨みになりながらお帰りになるご様子を思いますと、浮舟は例によって匂宮の面影が目に浮かんできて、こらえきれず悲しいので、宮の御文を顔に押し当てて、しばらくは人目を憚っていましたものの、とうとう声をたててお泣きになるのでした――

「右近、『あが君、かかる御けしき、つひに人見たてまつりつべし。やうやう、あやしなど思ふ人侍るべかめり。かうかかづらひ思ほさで、さるべきさまに聞こえさせ給ひてよ。右近侍らば、おほけなきこともたばかり出だし侍らば、かばかりちひさき御身ひとつは、空よりゐてたつまらせ給ひなむ』といふ」
――右近が「お嬢様、匂宮との間は、いつかはきっと人が感づくに違いありません。そろそろ、怪しいと思う人も居るようでございますよ。そうくよくよなさらずに、適当にお返事を差し上げておしまいなさいませ。右近がお付き添いしておりますからには、大それた事も企みます。そうすれば、そればかりの小さいお身体一つくらい、宮様は空を飛んででもお連れ出しなさいましょうよ」と言います――

「とばかりためらひて、『かくのみ言ふことこそ心憂けれ。さもありぬべきこと、と、思ひかけばこそあらめ、あるまじきこと、と、皆思ひとるに、わりなく、かくのみ頼みたるやうにのたまへば、いかなることをし出で給はんとするにか、など思ふにつけて、身のいと心憂きなり』とて、かへりごとも聞こえ給はずなりぬ」
――浮舟は、ややしばらく涙を抑えて「お前たちは私が匂宮に従っているとばかり思ってそのように言うのが、厭なのです。道に外れていることをはっきり分かっているのに、このように、まるで私が宮の方をお頼み申し上げてでもいるように独りで決めて仰せになりますので、一体どんなことをなさることかしらと、思いますにつけても、私は本当に辛いのです」と言って、お返事も差し上げないでしまわれたのでした――

では9/15に