永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1159)

2012年09月25日 | Weblog
2012. 9/25    1159

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その67

「かの殿にも、今はのけしき見せたてまつらまほしけれど、所々に書きおきて、離れぬ御中なれば、つひに聞き合はせ給はむこと、いと憂かるべし、すべて、いかになりけむと、誰にもおぼつかなくてやみなむ、と思ひ返す」
――あの薫大将にも、今生のお別れを申し上げたいとは思いますものの、あちらこちらに書いては、近しい御間柄のこととて、お話合いなさるうちに、やがては知れ渡ってしまい、それは困る事。すべて浮舟はどうなったのだろうと、全然誰にも分からないようにして死んでしまおう、と思い直すのでした――

「京より母の御文持て来たり」
――京から、母北の方のお文を持ってきました――

 そこには、

「寝ぬる夜の夢に、いとさわがしくて見え給ひつれば、誦経所々せさせなどし侍るを、やがて、その夢ののち、寝られざりつるけにや、ただ今昼寝して侍る夢に、人の忌むといふことなむ見え給ひつれば、おどろきながら奉る。よくつつしませ給へ。…」
――昨夜の夢に、とても胸騒ぎするご様子でお見えになりましたので、御安泰祈願の読経を方々の寺に頼みましたが、その夢のあと、そのまま寝られなかったせいか、今昼寝をしていましたところ、またしても人が不吉だという夢を見ました。あなたの身に不吉が起こったと見ましたので、目が覚める早々、この手紙を差し上げます。よくよくお慎みになってください。…――

 さらに

「人離れたる御住ひにて、時々立ち寄らせ給ふ人の御ゆかりもいとおそろしく、なやましげにものせさせ給ふ折しも、夢のかかるを、よろづになむ思う給ふる。参り来まほしきを、(……)とて、その料の物、文など書き添へて持て来たり。かぎりと思ふ命の程を知らで、かく言ひ続け給へるも、いと悲しと思ふ」
――人里離れたお住いですし、時折りそちらにお通いになる御方(薫)にゆかりの尊い御方(薫の正妻の女二の宮)の御恨みも大そう恐ろしく、あなたが御病気がちな折も折、こうして悪い夢を見ましたことを、何かとご案じ申しております。そちらへお伺いしたいのですが、(少将の北の方=浮舟の異母妹)が出産後まだ安心できず、物の怪めいて患っていますので、ちょっとの間でも側を離れてはいけない、と守にきつく言われています。そちらの近くのお寺でも、読経をおさせになるように)といって、そのための布施の料や、依頼状などを書いて一緒に持ってきました。いよいよ最後の命ということも知らず、母君がこのように心に懸けて言い続けてこられるのも、大そう悲しいと浮舟は思うのでした――

では9/27に。