永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1156)

2012年09月19日 | Weblog
2012. 9/19    1156

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その64

「髪脇より掻い越して、やうだいいとをかしき人なり。馬に乗せむとすれど、さらに聞かねば、衣の裾をとりて、立ち添ひて行く。わが沓を穿かせて、みづからは、供なる人のあやしきものを穿きたり」
――侍従は下げ髪を脇の下から前へ回して(歩きやすいように)抱え、大そう姿の良い女です。馬に乗せようとしますが、どうしても乗らないので、時方は衣の裾を持って付き添って行きます。自分の沓を履かせ、自分は供の者の粗末なのを借りて履いています――

「参りて、かくなむ、と聞こゆれば、語らひ給ふべきやうだになければ、山がつの垣根のおどろ葎の陰に、障泥というものを敷きておろしたてまつる。わが御心地にも、あやしきありさまかな、かかる道に損なわれて、はかばかしくはえあるまじき身なめり、と思し続くるに、泣き給ふことかぎりなし」
――匂宮の御前に出て、事の次第を申し上げますと、御馬の上からではお話も思うようになされませんので、いばらや荒草の生い茂った陰に、障泥(あふり)という泥よけの馬具を敷いて宮をお降ろしします。宮はご自分のお心の内でも、何と言う成り行きだろう。とんだことになってしまった。こうした浮気に身を持ち崩して、しっかりした生活はできそうにない身なのだろうか、と思い続けておられるうちに、限りなく泣かれるのでした――

「心弱き人は、ましていといみじく悲しと見たてまつる。いみじき仇を鬼につくりたりとも、おろかに見棄つまじき人の御ありさまなり」
――気の弱い侍従は、ましていっそうひどく悲しくお見上げして、たとえ恐ろしい仇敵を鬼にして向かったとしても、いい加減には見棄てられない宮のご立派さです――

「たまらひ給ひて、『ただ一言もえ聞こえさすまじきか。いかなれば、今さらにかかるぞ。なほ人々の言ひなしたるやうあるべし』とのたまふ」
――(匂宮は)しばらく泣いておられた後、『たった一言もお話申せないのだろうか。どうして今になってこうも厳重にするのだ。やはり誰かが告げ口したことがあるのだろう』とおっしゃる――

「ありさまくはしくきこえて、『やがて、さ思し召さむ日を、かねては散るまじきさまに、たばからせ給へ。かくかたじけなきことどもを、見たてまつり侍れば、身を棄てても思う給へたばかり侍らむ』ときこゆ。われも人目をいみじく思せば、ひとかたにうらみ給はむやうもなし」
――侍従は様子をくわしくお話して、「すぐに京へお迎えになります日を、前もって他に漏れないようにお計らいくださいませ。このように畏れ多いご様子を拝しましたからには、私は身を捨ててまでもお尽し申し上げる所存でございます」と申し上げます。宮ご自身も人目をひどく気にしておいでになりますので、ただ、相手を一途にお恨みになることもできないのでした――

◆障泥(あふり)というもの=馬の両脇に垂れて泥を防ぐもの

では9/21に。