永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1194)

2012年12月21日 | Weblog
2012. 12/21    1194

五十二帖 【蜻蛉(かげろう)の巻】 その34

「例の、念誦し給ふ、わが御方におはしまししなどして、昼つかたわたり給へれば、のたまひつる御衣、御几帳に打ち掛けたり。『何ぞこは、たてまつらぬ。人多く見る時なむ、透きたるもの着たるはばうぞくに覚ゆる。ただ今はあへ侍なむ』とて、手づから着せたてまつり給ふ」
――(薫が)常々御念誦をなさるご自分のお部屋においでになったりして、昼ごろ、こちらへお渡りになってみますと、今朝命じて作らせたお召し物が几帳に掛けてあります。「どうしてこれをお召しにならないのですか。人が大勢います時には、透いた物をお召しになるのは不作法ですが、今ならかまいませんよ」と仰って、ご自身でお着せ申されます――

「御袴も昨日とおなじ紅なり。御髪の多さ、裾などはおとり給はねど、なほさまざまなるにや、似るべくもあらず。氷召して、人々に割らせ給ふ。取りて一つ奉りなどし給ふ、心のうちもをかし。絵に書きて、こひしき人見る人は、なくやはありける、ましてこれは、なぐさめむに似げなからぬ御程ぞかし、と思へど、昨日かやうにて、われまじり居、心にまかせて見たてまつらましかば、と覚ゆるに、心にもあらずうち歎かれぬ」
――御袴も、昨日と同じ紅です。お髪の多さ、その垂れ下がった趣きなど、姉宮(女一の宮)に負けはおとりになりませんが、やはり美しさにもいろいろあるのか、少しも似てはいらっしゃらない。氷を取り寄せて、人々にお割らせになり、その一つを取って、お渡しになりながら、昨日の真似ですので、胸のうちで、一人おかしくお思いになります。絵に描いて、恋しい人を見る人もあるではないか。ましてこの御二人は姉妹なのですから、代わりに見て心を慰めるには似つかわしい筈であるものの、昨日もこのように自分もあの中に交じって、心ゆくまで女一の宮の御姿を見ることができたなら、と思いますと、思わず溜息が洩れるのでした――

「『一品の宮に、御文は奉り給ふや』と聞え給へば、『内裏にありし時、上のさのたまひしかば聞えしかど、久しうさもあらず』とのたまふ。『ただ人にならせ給ひにたりとて、かれよりも聞えさせ給はぬにこそは、心憂かなれ。今、大宮の御前にて、うらみきこえさせ給ふ、と啓せむ』とのたまふ」
――(薫が)「一品の宮に、お文はお上げになっていらっしゃいますか」とお訊ねになりますと、
「御所に折りました頃は父帝がお勧めになりましたので差し上げましたが、ここしばらくはご無沙汰しております」とお答えになります。「あなたが普通の人の私に御降嫁されたからといって、あちらからもお寄こしにならないのでしたら、それはよくありませんね。今度大宮の御前に出て、貴女が女一の宮をお恨みしておられると申し上げましょう」とおっしゃる――

「『いかがうらみきこえむ。うたて』とのたまへば、『下衆になりにたりと、思しおとすなめり、と見れば、おどろかしきこえぬ、とこそは聞えめ』とのたまふ」
――(女二の宮が)「何でお恨みなどいたしましょう。厭でございます」とお答えになりますと、「身分が下がったからと女一の宮が軽蔑なさるように思いますので、こちらからもお便りを差し上げないのです、と申しましょう」とおっしゃる――

◆ばうぞく(放俗、凡俗)=品が悪い、不作法
◆女一の宮と女二の宮は共に帝の姫宮ですが、母君が違う異母姉妹。

では12/23に。