永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1197)

2012年12月27日 | Weblog
2012. 12/27    1197

五十二帖 【蜻蛉(かげろう)の巻】 その37

「姫宮は、あなたにわたらせ給ひにけり。大宮、『大将のそなたに参りつるは』と問ひ給ふ。御供に参りたる大納言の君、『小宰相の君に、もののたまはむにこそ侍めりつれ』と聞ゆれば、『まめ人の、さすがに人に心とどめて物語するこそ、心地おくれたらむ人は苦しけれ。心の程も見ゆらむかし。小宰相などはいとうしろやすし』とのたまひて、御兄弟なれど、この君をばなほはづかしく、人も用意なくて見えざらむ、と思いたり」
――姫宮は、大宮のほうにお渡りになっていました。大宮が、「大将がそちらへ参ったのは……」とお問いになりますと、お供して参上した女房の大納言の君が、「小宰相の君に、何かお話になろうとのお積りらしゅうございました」と申し上げます。中宮が「あの生真面目な人が、さすがに女に心を寄せて話をするには、気が利かない人では困りますね。才の程度も見えるというものです。小宰相ならばまずまず安心ですね」とおっしゃいます。中宮は、大将の君とは御姉弟でいらっしゃいますが、やはり薫に対しては気づまりで、気が負けるところがおありで、女房たちにも、行き届かぬご接待はしないように(充分ご接待に気をつけて)とお思いになっています――

「『人よりは心よせ給ひて、局などに立ち寄り給ふべし。物語こまやかにし給ひて、夜更けて出でなどし給ふ折々も侍れど、例の目馴れたる筋には侍らぬにや。宮をこそ、いとなさけなくおはします、と思ひて、御いらへをだに聞えず侍るめれ。かたじけなきこと』と言ひて笑へば、宮も笑はせ給ひて、『いと見ぐるしき御さまを、思ひ知るこそをかしけれ。いかでかかる御癖を止めたてまつらむ。はづかしや、この人々も』とのたまふ」
――(侍女の大納言が)「薫大将殿は、小宰相をほかの女房より格別お気に召していらっしゃるようで、局などにもお立ちよりになるようでございます。お物語などしみじみとなさしまして、夜更けてからお帰りになることも時折りございますが、普通の人々の色恋沙汰ではございませんのでしょう。あの人は匂宮様をたいへん浮気な方でいらっしゃると思って、お返事さえさしあげないようでございます。畏れ多いことで」言って笑いますと、明石中宮もお笑いになって、「小宰相が匂宮のみっともない浮気性を見抜いているなんて、感心ですこと。何とかしてこのお癖をなくして差し上げたいものです。恥かしくてなりません。そなたたちの手前もね」とおっしゃる。

「『いとあやしきことをこそ聞き侍りしか。この大将の亡くなし給ひてし人は、宮の御二条の北の方の御おとうとなりけり。異腹なるべし。常陸の前の守なにがしが妻は、叔母とも母とも言ひ侍るなるは、いかなるにか。その女君に、宮こそ、いと忍びておはしましけれ。大将殿や聞きつけ給ひたりけむ、にはかに迎へ給はむとて、まもりめ添へなど、ことごとしくし給ひける程に、宮も、いと忍びておはしましながら、え入らせ給はず、あやしきさまに、御馬ながら立たせ給ひつつぞ、帰らせ給ひける』」
――(大納言が)「そういえば、妙な話を聞きましたのでございますよ。この間、大将殿がお亡くしになりました方は、匂宮の二条院の北の方のお妹君だそうでございます。腹違いでいらっしゃいましょう。常陸の前の守なにがしの妻が、その叔母とも母ともいう話でございますが、どうしたわけでございましょうか、その女君に、あの匂宮がごく秘密にお通いになったのでございます。大将殿がお聞きつけになったのでしょうか、急に京へお迎え取ろうとなさいまして、警護の者を付け、きびしく見張っておりましたところへ、匂宮がそっとお出でになりましたが、とうとうお入りになることがお出来になれず、みすぼらしいご様子で御馬にお乗りになったまま、お帰りになりましたそうです」――

では12/29に。