蜻蛉日記 中卷 (123) 2016.5.7
「また、尚侍の殿よりとひ給へる御かへりに、心ぼそく書き書きて上文に『西山より』と書いたるを、いかがおぼしけん、又ある御かへりに、『とはの大里より』とあるを、いとをかしと思ひけんも、いかなる心心にてさるにかありけん。」
◆◆また、尚侍貞観殿登子さまからお見舞い下さったご返事に、心細い思いを書き連ねて上書きに、「西山より」と書きましたのを、どうお思いになったのか、また届いたお返事に、「東の大里より」と書いてあるので、私はとても面白く思ったことでしたが、それぞれどんな思いであったのかしら。◆◆
「かくしつつ日ごろになり、ながめまさるに、ある修行者、御嶽より熊野へ大峰通りに越えけるがことなるべし、
<外山だにかかりけるをと白雲のふかき心は知るも知らぬも>
とて、落としたりけり。」
◆◆こんなふうにして日が経っていき、以前よりさらに物思いに沈んでいるときに、この山寺の修行者が御嶽(みたけ)より熊野へ、大峰越えをして行った者のしわざであったろうか。
(修行者の歌)「京に近い西山でさえこれほど寂しいとは知らなかったが、あなたの深い求道心は誰でも存じておりますよ」
とて、戸の様な歌を落し文にしてありました。◆◆
■西山より=この山寺の鳴滝は平安京の西
■修行者=鳴滝の山寺に籠っている修験者(山伏)
■大峰通り=金峰山(御嶽)以南、熊野へ至る山々の総称
■落としたり=落し文に=名を隠してそれとなく相手に届ける手紙。
「また、尚侍の殿よりとひ給へる御かへりに、心ぼそく書き書きて上文に『西山より』と書いたるを、いかがおぼしけん、又ある御かへりに、『とはの大里より』とあるを、いとをかしと思ひけんも、いかなる心心にてさるにかありけん。」
◆◆また、尚侍貞観殿登子さまからお見舞い下さったご返事に、心細い思いを書き連ねて上書きに、「西山より」と書きましたのを、どうお思いになったのか、また届いたお返事に、「東の大里より」と書いてあるので、私はとても面白く思ったことでしたが、それぞれどんな思いであったのかしら。◆◆
「かくしつつ日ごろになり、ながめまさるに、ある修行者、御嶽より熊野へ大峰通りに越えけるがことなるべし、
<外山だにかかりけるをと白雲のふかき心は知るも知らぬも>
とて、落としたりけり。」
◆◆こんなふうにして日が経っていき、以前よりさらに物思いに沈んでいるときに、この山寺の修行者が御嶽(みたけ)より熊野へ、大峰越えをして行った者のしわざであったろうか。
(修行者の歌)「京に近い西山でさえこれほど寂しいとは知らなかったが、あなたの深い求道心は誰でも存じておりますよ」
とて、戸の様な歌を落し文にしてありました。◆◆
■西山より=この山寺の鳴滝は平安京の西
■修行者=鳴滝の山寺に籠っている修験者(山伏)
■大峰通り=金峰山(御嶽)以南、熊野へ至る山々の総称
■落としたり=落し文に=名を隠してそれとなく相手に届ける手紙。