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2016年3月4日(土)13時52分
カリフォルニア州トーランス 西部航空博物館
最初の討ち入り先、西部航空博物館 Western Museum of Flightへとやって来ました。
小さい博物館でして、トーランス空港内にある格納庫のひとつを使って展示をしています。空港の格納庫を博物館にするというのはアメリカだとよく見かけます。特に動態保存をしている博物館はだいたいこの方式です。
ここは別段動態保存機は持っていないんですが、空港のエプロンには個人所有のT-6などが駐機されていてなんというかまあ国の違いを見せつけられました。
さて、とりあえずはYF-23を見ないことには仕方がありませんので、学芸員のおじいちゃんに「YF-23見たいんだべさ、見してくれるだす?」と聞いてみます。すると「ええんやで、連れてってやるからあの車に乗るんやで」と快諾されます。やったぜ。
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おじいちゃんの車で素敵エリアに到着。
おおお(*^○^*) これはいいですよ、盛り上がってきたぜ。
この別館には、YF-23、F-14、T-38それとYF-17が展示されています。やばいよね。
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まずYF-23ドーン!!モノホンだぞ!息を呑みますね、これ。てか、思ってたよりずっとでかいです。
今旅行2機目の飛行機、ノースロップYF-23ブラックウィドゥIIは1980年代の次期戦闘機開発計画「先進戦術戦闘機計画(ATF計画)」でYF-22(後のF-22ラプター)との競作で2機が試作された試作戦闘機です。
いわゆるステルス戦闘機であり、機体にはそのための機構が組み込まれています。これを今から見ていくぞ。
ATF計画の勝者は結局はYF-22となりYF-23は試作機止まりとなってしまいましたが(ノースロップさんチームはいつも決勝戦で負ける)、1号機PAV-1「スパイダー」はデイトンの米空軍博物館に、2号機PAV-2「グレイゴースト」はここ西部航空博物館に保存されています。スパイダーの保存場所はまあ妥当として(世界最強クラスの航空博物館なのだ)、グレイゴーストはよくこんな小さな博物館に保存されたなぁ・・・と。
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正面から。
ノースロップのステルス機で特徴的なのが、横から張り出しているツバのような形状の機首。見ようによってはカエルのような印象を与えます。
なんだかめちゃくちゃ話が長くなりそうだし私には理解不能な話なんで超簡単に済ませてしまいますが、つまりは照射されてきたレーダー波をレーダーアンテナに反射させて探知されるのを防ぐため、明後日の方向に反射させるための工夫です。
とにかくレーダー波を垂直に反射させないように、形状を曲面とすることと鋭角を作らないことを追求した結果がこの形状です。飛行中の戦闘機に対してレーダーサイトからのレーダー波はだいたい横から来るということなので、この機体に横からレーダーを当ててみると、見事に上へ下へあらぬ方向へと弾き飛ばされるというのが分かるかと。まあ、そんな感じなのです。
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機首を別角度から。
機首を円錐状にしないで上下で分割できそうな形状は以降どこの国のステルス機でもおなじみの形態になりましたね。
あとは、試作機と言えば鼻っ先から長く伸びたピトー管ですが、YF-23にはこれが無いです。そこにステルスへのこだわりがあるかは知りませんがそれが感じられます。一方ロッキードさんチームのYF-22はステルスなんて知るかバーカという感じでピトー管がにょきっと生えているんで、うーん・・・。
コックピットの辺りは一段盛り上がったような形状になっていて、後方視界にも配慮した形になっているのかな?
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機首を後ろから。首が異様に長い。蛇みたいだ。
ちなみにブラックウィドゥというのは「クロゴケグモ」の意味です。直訳すると「黒い未亡人」と戸田奈津子バリのスカポンタン誤訳になってしまうんで注意。
ブラックウィドゥという名前の戦闘機は昔にP-61(これもノースロップ製)が採用していたのでYF-23はそれの2代目、なのでブラックウィドゥIIなのです。
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降着装置とそのフタ。単純な六角形でなんだかいい加減だなーと思わなくもないですが、こんなもんなんですかね。
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裏側。これはPAV-2グレイゴースト号のはずなんですが、なぜかスパイダーの文字が。ナゾい。
機体にはノースロップの文字が大きく書かれていますが、その横にはマクドネル・ダグラスもいます。戦闘機の試作を1社だけでなく複数社に分担させることでメーカーが潰れないように保護するための策とされています。ロッキードさんチームの方もロッキードの他にボーイングと手を組んでいます。
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ジェット機の空気取り入れ口は、空気の境界層を取り込まないように機体表面からはわずかに浮かして境界層隔壁(ダイバータ)配置されています。境界層っていうのは機体表面を流れる空気の層のことで、機体との摩擦により周りよりも空気の流れが遅いのです。空気をガンガン取り込みたいジェット機にとってはこの流れの遅さから来る流入量の減少はエンジン効率を下げるんで、基本的に境界層対策として上記のような配置をします。境界層はこの後も何回か出てくるかもしれないので覚えておくように。
で、YF-23はそうでなく機体に直に取り付けられているので、どうなっておられるのやら・・・と思ったのですが、取り入れ口の手前に境界層を取り除くための細かい穴がたくさん空いていました。なるほどね。理論はよく分からないけどさ・・・。
ダイバータを設けるとレーダー波の乱反射を起こしてしまいやすくなるので、ステルス機では避けられる傾向があります。YF-23もそのためのこの配置だと思います。こんなに穴開けて大丈夫だったのかなとは思いますが。
ただし、ダイバータレスにするのは結構難しかったようでして、F-22ではこれを諦めて通常の取入口の形にしています。アメリカのF-35や中国のJ-10でようやく実用化されてきたって感じです。
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垂直/水平尾翼。YF-23の大きな特徴のひとつです。通常垂直尾翼と水平尾翼をそれぞれ用意するところを、1枚に統合したのがこれです。これもステルスのため。
斜めに傾けて配置されているのもレーダー波を飛ばすため。これはもうどこでもやってるおなじみの手法ですね。
主翼も左右合わせると四角形に見えるというこれまた奇怪な形状をしています。
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エンジンの排気口。これもまた特徴的で、下側が覆われていて黒い耐熱タイルで囲まれています。排気口から出る赤外線を下方へ出さないための対策、いわゆる赤外線シグネチャ対策です。これは先に開発されていたB-2爆撃機からのアイデアでしょうね。ただしこれによりF-22には実装されている推力偏向ノズルは無いです。
ステルスとは何もレーダー対策だけでなく赤外線、音、振動なんかも含まれます。そもそもATF計画で要求されたステルス性能というのは、地上から発射されるレーダー誘導の地対空ミサイル(SAM)対策だったのでした。
莫大なコストを掛けて戦闘機を買ってパイロットを育てたのに、それよりも圧倒的にコストの安いSAMにボコスカ撃ち落とされたんじゃもうタマランわけです。だからレーダー/赤外線に探知されないならミサイルも無効化されるよね?という考えだったんだと思います。
ちなみに、既に撤去されて中はガランドウになっていると思いますが、これに搭載されていたエンジンは超音速巡航が出来る代物でした。超音速巡航というのはアフターバーナー無しで音速を突破できてなおかつその状態で長距離飛行出来るということでし。
これも確か敵(ソ連さん)のSAMが飛んでくる前にミサイルを超音速で振り切ってしまえばよかろうという考えだったはずです。
これだけ読むとATFというのは当初はいかにSAMを避けるかというのを念頭に置いているように見えて、まあアレですね。
なんだかややこしくなってきたのでこの話はおしまい(逃
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後ろから。こうしてみると曲線美がグラマラスな形状です。ここら辺もB-2を開発したノースロップらしいものですね。
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お腹にも潜れます・・・がウェポンベイはよく分からず。ここまで舐めるように見回して、連れてきてくれたおじいちゃんも少し引き気味・・・。
胴体が横に広い・・・つまりデブというのもステルス機の特徴でして、ミサイルや爆弾を胴体内に収めるためですね。従来機のように武装を機外へぶら下げていてはせっかくのステルスも台無しなのです・・・。
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最後に全体を。
幻の戦闘機としてその存在は前から知っていたんですが、こんな所に保存されているとは知らずしかも実際に見られるとは。
YF-22がステルス機ながらも戦闘機としてまともな形状をしているのに対して、YF-23は未来的でSF的な機体なのがえらくかっこいいのです。F-22とタメを張れるのはこいつだけだろうなぁと思います。
まだ他にいますが、今日はここまで。
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