2016年3月4日(土)14時26分
カリフォルニア州トーランス 西部航空博物館
YF-23などが並ぶ別館から本館へと戻ってきました。"次の討ち入り先"もあるのでそんなにゆっくりとは見ていられません。15時までには出発したいので見学時間は約30分・・・。今回はやたら見学の制限時間に囚われたんですが、初っ端からこれですか。
ボーイングF4B戦闘機(レプリカ・6機目)。
初飛行は1928年6月25日。同社のF2B,F3Bの更新用に自社開発した機体です。前任機よりも小型軽量で機動性も良好だったとのこと。艦上戦闘機として運用されていたんで、空母に搭載されていたんでしょうね。
アメリカ海軍はこれを派生型全部ひっくるめて200機ほどを発注しました。この頃の軍は数年ごとに戦闘機をちまちま購入していたんで、こんなもんなんですかね。
後にアメリカ陸軍もP-12として採用しこちらは約360機生産されました。陸軍向けのほうが多いんだな。
実はまだ製作途中なのかは分かりませんが、主翼の羽布は張られないままでした。
工芸品だねぇこりゃぁ、という感じの主翼でした。
ノースロップF-5A「フリーダムファイター」(7機目)。
別館で見たT-38タロン練習機を戦闘機にした感じのノースロップの代表的機体です。価格が安くて取扱も簡単な小型戦闘機で、経済力の弱い中小国を中心に2000機ほどがバラ撒かれました。開発国であるアメリカでは基本的に採用されておらず、ボンビーな西側陣営の国向けの輸出用戦闘機でした。ここらへんはアメリカではバカ売れしたけど海外では全然売れなかったT-38と対称的でした。
とはいえ超音速飛行も出来たり稼働率が高かったり、安かろう悪かろうという戦闘機ではなかったのが強いところ。
日本ではF-5は採用されなかったので影が薄気味ですが、F-4運用国よりもよっぽど多い国で運用されていました。
超音速戦闘機にはあるまじき、機首に機関銃をデデンと配置した作り。まあこの機体機関銃自体は外されているんですが・・・。この機関銃の銃口が有るか無いかがF-5とT-38を見分ける点のひとつです。
機首のほとんどはこの機関銃で占められていて、レーダーを搭載する空間はほとんどありません。というかF-5は端からレーダーを持っていない戦闘機なのでそうなります。とにかく安価に造るんだという設計思想が垣間見えますね。ただし改良型であるF-5E/FタイガーIIには機首を延長した上でレーダーを実装しています。
コックピット。といってもここら辺はよく分からないんですけどね。
座面の後ろには、緊急脱出時に必要であろう射出レールっぽい部品が見えて、なるほどこれに沿って飛ばされるんだなぁと。
計器盤。どの計器がどの数値を表しているのか・・・というのが分かると面白いんでしょうけどね。無学なもので。
胴体後部と主翼。描かれている国籍マークはノルウェーのものです。ノルウェーは約100機のF-5を運用していました。
主翼は後のYF-17と似たところがあり、YF-17のルーツはF-5なのだなぁというのを感じます。
胴体は主翼の付け根部分がくびれているのが特徴。これはエリアルールという遷音速域での抗力を抑える工夫です。機体を輪切りにした時の断面積変化が緩やかだと空気抵抗が増大しにくく音速突破が容易になるというヤツです。
飛行機の場合、断面積がドカンと増えるのは主翼部分でして、この部分の胴体をくびれさせることで断面積変化の差し引きを少なくしてやろうという魂胆なのです。F-5の場合、主翼端の増槽までエリアルールを適用するという念の入りようです。
現用機でも胴体がくびれていたり、主翼、水平尾翼、垂直尾翼をそれぞれ跨ぎながらずらして配置することで断面積変化を緩やかにしています。
これ以上詳しい話は大変なので無しで。エリアルールに関してはコンベアのYF-102が一番有名なのでそこら辺の話を読んでもらえれば。
そしてF-5の真骨頂が主翼前縁の付け根から飛び出ている前回も出てきたLERXでございます。T-38には付いていないモノでして、これも両者の識別点のひとつ。
何かの部品か配線を主翼に収めきれなくてしょうがなく付け足したもので、狙ってつけたわけではないです。なので当時の設計陣もその効果を知らず。これによりノースロップの予測よりも機動性が良くて失速速度も思ってたより低くなかったという事態になり驚かせたそうな。
これがその後の戦闘機の高機動性の要因の一つになっていくのです。
ノースアメリカンF-86F「セイバー」(8機目)。朝鮮戦争といえばコレ。自衛隊でも運用していたので知っている人も多いでしょう。
実はこの個体(S/N 55-3937)は航空自衛隊で最後まで運用されていた機体でなんだぜ、とサラッと書かれていました。い、意外な所にいるもんだなぁ。自衛隊のF-86はアメリカからの供与機もあったので退役後に返還されたんでしょう。
ただし塗装はバリバリのメリケン空軍でして。朝鮮戦争中に参戦したジャック・スーツケース・シンプソン中尉の乗機だった「スーツケースの田舎者号 Suitcase's apple-knocker」を再現したものです。
この人の名前からF-86の名前までわけわからんセンスなんですが、スーツケースというのはとある漫画のキャラクター「ハリー・スーツケース・シンプソン」から付けられたあだ名、田舎者というのはシンプソン(本人の方)の幼少期のあだ名なのが由来なんだとか。
ちなみにapple-knockerというのは直訳で「りんご摘みする人」という意味です。どうしたら田舎者って意味になるんだ?ただ、お上品な言葉ではないようなので使う時は中尉・・・もとい注意。
個体と全く無関係の塗装で保存されているというのはよくあることなので、ここは注意しておかないといけません。
もうひとつ付け加えておくと、このセイバーは国立アメリカ海軍航空博物館からの借りて展示している機体です。別の博物館から借りて展示というのもこっちではよくあります。といってもなんで海軍の博物館が持ってるんだか。
F-86の口の中を覗いてみます。コックピットをかわすように吸気口が少し下を通りながら配置されています。
エンジンが収まる所はガランドウですね。
斜め後ろから。主翼を従来の胴体に対して垂直ではなく斜め後ろに角度をつけて配置した後退翼が特徴です。
尾部。もぬけの殻のエンジン部を隠すために赤いフタをしてあるというのはよくよく見かける展示法です。
一応この赤いフタは現役の軍の戦闘機でも使われるようなもので、なるべくそれっぽい隠し方になるよう博物館側も頑張っているのです。
その後ろにはエンジンがドカンと置いてあって「なんだあるじゃん!」と驚いたんですが、これF-86のエンジンじゃない・・・。
これはプラット&ホイットニーTF-30です。世界初のアフターバーナー付ターボファンエンジンです。純粋な世界初はイギリスのエンジンだったはず。
御存知F-14やマクナマラのアレことF-111に搭載されたエンジンですな。
ただしF-14で大迎え角で高出力を出そうとすると空気の取り込みが悪くなりコンプレッサーストールを起こすという欠陥がありました。
こうなるとエンジンが停まってしまい墜落したり、2基あるエンジンの内片方だけ停まってしまうと機体が水平にぐるぐる回って操縦不能に陥ってやっぱり墜落してしまいました。トップガンでもそんな場面があったと思います。
ちなみにF-111はそんな芸当できなかったので(戦闘機なのに・・・)問題にならなかったそうよ。
アクメ航空機S-1「シエラ」(9機目)。1953年11月23日初飛行。
ノースロップの技術者が設計した推進プロペラ機の実験機です。推進プロペラというのはアレです、震電みたいなやつです。
垂直尾翼は尾部下面に、水平尾翼は斜めに取り付けられていて、これを合わせるとちょうどY字になります。エンジンは胴体内コックピットの後ろに収められていて、胴体の左右にはジェット機のような空気取入口があります。
境界層制御の実験などをやっていたとのこと。
YF-23の模型。風洞実験にでも使ったのかしら。
その左にあるF-35のパチもんみたいなやつはなんなんでしょうね・・・。
ゲゲッ!これはアメリカ海軍の飛行船(!!)USSシェナンドーさんじゃないですか!!
1923年に進水ならぬ進空しました。いくら船は海軍の領分だからって飛行船っておまえ・・・となりますが、当時の海軍は大真面目にこれを敵艦隊の偵察に用いる腹でした(米海軍の艦船接頭辞である"USS"がちゃんと付いている辺りマジだったんでしょう)。今だったら笑い話ですが、当時はまだ航空母艦が使い物になるか分からない時代だったし、多少はね。
遮蔽物のない海上では空から艦隊を偵察することの威力は大きいです。自艦隊の着弾観測任務だって出来るはずで、そうなるともし運が良ければ当たっちゃうかもしれない程度の確率で行われる艦砲射撃において着弾観測できれば自艦隊の攻撃力は飛躍的に上がるはずです。
ちなみにその後建造された飛行船USSアクロン(洗剤かな?)は偵察用の航空機を5機搭載できる前代未聞の空飛ぶ空母なのでした。米海軍の飛行船はとにかく野心的な構想なのでした。
ただし飛行船というのは悪天候が死ぬほど苦手で、USSシェナンドーは初飛行から2年後の1925年9月25日にオハイオ州で悪天候により沈没ならぬ墜落してしまいました。文字通りの航空母艦ことUSSアクロンも突風で墜落しています。
結局航空機の性能向上と空母がどうも使えるらしいぞ?というようになったんで飛行船は廃れていきましたとさ・・・。南無。
今日はここまで。
その6へ→