今年に入って、書店で懐かしい書名を見て、その本をいったん手に取ったのだが、次の瞬間、触れてはいけないものだったという気持ちに襲われ、その本を棚に戻した。まさかあの本に出会うとは…。
半世紀よりもっと前に、少年の私の心を揺さぶり涙させた小説、書名はシュトルムの「人形使いのポーレ」。昔読んだ本のタイトルに「のポーレ」がついてなかったことまで憶えていた。本心は読みたくてたまらないのに、幼いころの感情にとらわれるのが何だか恥ずかしかった。
ところが、今日のM新聞の読書欄で、詩人の荒川洋治氏がこの新訳本を取り上げているではないか。文学に触れて、幼いころの気持ちを取り戻すことが恥ずかしいとは……。この本を読んで何も感じなかったら、と不安がないわけではないが、必ず読むと固く心に誓った。(2020.12.12)