クッチャロ湖夕景
今週、クッチャロ湖の町に行ってきた。その町へ通じる四ルートのうち、山々を巡る険しいルートに迷い込んだ。ちょっと登っただけで、道の傍らにはまだ雪が解け残っていた。雪解け水が作った小さな沼が、汚れた雪の谷間にいくつも点在していた。峠に近づくにつれ、背筋がザワザワしてきた。何かがこっちに向かってくるといった気配がして、思わず車のブレーキを踏んだ。そのとき、目の前を黒い物体がサッと横切った。道路脇には鹿の姿がいくつもあった。数分後、また急ブレーキ。二頭の鹿が、目の前の道路上で交差したのだ。彼らの跳躍力なら狭い道路なんてひと跨ぎだ。
息切れしながらやっと峠を下り、町の旅館に着いた。部屋の窓からクッチャロ湖が見渡せた。さっきまでの風が止んだのかまったく音がなく、まばらな木々の間からじんわり洩れる夕暮れの薄陽はぜんぜんまぶしくなかった。針葉樹や、若芽をちょっとだけ吹いた白い大きな木、細い木は、まだ黒ずんだ色をしていた。
翌朝少し早起きして、湖畔に行ってみた。大小様々なハクチョウがいた。黒いのもいたが、どれもこれも岸辺にじっとくっついているだけ。時間が止まったような景色が目の前に広がっていた。この季節、ここではこれといって見るようなものはない。(2015.4.30)
クッチャロ湖のハクチョウ