正倉院には、「エミシの刀」とも呼ばれる蕨手(わらびて)刀がしまい込まれていると聞いていたので、今回の宝物展で出会えるかと期待に胸膨らませたのだが展示されていなかった。北海道に持ち込むと何か不穏な事態が起きるかも、と懸念されたわけではあるまいが実に残念だ。正倉院のものは写真で見ているし、錆びついてボロボロの現物(上の写真)も知っているが、正倉院のは別物。千数百年の時を超えて現代によみがえった新品そのものなのだ。
また、新羅で製作されたとされる「佐波理加盤(さはりのかばん)」というネーミングの入れ子の鋺があった。今回は陳列されなかったが、「響銅八重鋺 (さはりやえまり)」も同じ構造の器なのだろう。さはりとは、銅、錫、鉛の合金で製作したものの名称。光沢のある八つの器を重ねたままでも、鋺のふちを弾いたら荘厳なとてもいい音がしそうだ。
ところで、今、札幌で開催中の展覧会に陳列された数々の宝物は、すべて再現模造されたもの。当時の製作技術を解明することから始まったであろうこの作業は、涙なしには語れないくらい、とてつもない努力と時間を要したことだろう。私にはそんな根性は1ミリもない。(2021.10.28)