ごく少人数の一周忌法要の会場を、この地に来た直後、一回きり入った店に決めたのは、なぜだったのだろう。私は予約してから、念のため試食しに行った。昼時のメニューから丼ものを選んだのが間違いだったのか、歴史のある老舗なのに、特別な個性は感じられなかった。
妻が、来たがらなかったのはこういうことだったのか、と遅まきながら思ったが、店を代えるまでの決断はできなかった。代わりになるような店はこの辺りになかったから。
ところが、行事が2週間ほどに迫ったころ、その店から電話が来た。予約の確認かと思いきや、電話口の女性は、数日後に閉店が決まったと謝罪の言葉をおずおずと繰り返すのだった。想定外の事態だった。思いあぐねた私は、妻の妹の一人に電話した。彼女は、ある寿司屋の名前を口にした。
妻の妹二人と、店も人も旧びた近傍の寿司屋で昼飯を食ったのは、妻が亡くなった数日後だった。妻はそこの雲丹が安くてうまいと言うので、何度か足を運んだことがあった。葬儀の後、家にいてくれた妹たちと、その店の雲丹を食おうと思い立ったのは私だった。
妻が、来たがらなかったのはこういうことだったのか、と遅まきながら思ったが、店を代えるまでの決断はできなかった。代わりになるような店はこの辺りになかったから。
ところが、行事が2週間ほどに迫ったころ、その店から電話が来た。予約の確認かと思いきや、電話口の女性は、数日後に閉店が決まったと謝罪の言葉をおずおずと繰り返すのだった。想定外の事態だった。思いあぐねた私は、妻の妹の一人に電話した。彼女は、ある寿司屋の名前を口にした。
妻の妹二人と、店も人も旧びた近傍の寿司屋で昼飯を食ったのは、妻が亡くなった数日後だった。妻はそこの雲丹が安くてうまいと言うので、何度か足を運んだことがあった。葬儀の後、家にいてくれた妹たちと、その店の雲丹を食おうと思い立ったのは私だった。
なるほど、とつくづく思う。そのことに気づかなかった私に代わって、妻がはじめからその寿司屋に決めていたのだ。(2024.8.21)