私は、「さざえもなか」を食した日の翌日になっても、もなかの風味を記憶から消し去ることがなかなかできなかった。試しにインターネットで検索すると、古びた店に常備しているお品書きのようなホームページが目に飛び込んできた。それを見たとたん、決断力に乏しいはずのこの私が、躊躇なくお取り寄せの画面を開いて入力し始めたのだ。手続きの途中、一度だけ迷いが生じたのは、送料を加えて一個当たりの値段を計算したときだ。定価が倍近くにもなる。それなら、たくさん買った方が得だと即断し、結局、十二個入りを二箱も注文してしまった。家で甘い物を食すのは私だけだというのに。
数日後、はるか数千キロを旅してサザエが届いた。大きな荷物に目を丸くした家人は、一箱丸ごと、知人の家に進物として持っていってしまった。私は、まさか一人で二十四個も食いたいとは口にできず、自分の飽くなき食欲に慚愧の思いを抱きつつ、歯を食いしばって我慢した。
家人のいない間にさっそくサザエにかじりつくと、今時珍しい濃厚な甘みに口も心も溶けてしまい、一個だけで十分満足した。(2014.4.21)