昨年末に予告していた「弥生時代の歴史」は読了。勢いあまって、「豊璋 藤原鎌足の正体」(関裕二著、河出書房新社)というきわどい本までななめ読みした。これが実に興味深い本。百済の王族、豊璋が倭国に来て、中臣氏に取り入り鎌足を名乗り、中大兄皇子(後の天智天皇)を篭絡して国家権力を握り、ついには子の藤原不比等らの活躍でこの国を支配するほどの勢力になったという説を唱える。
この話は極めて大胆に聞こえるが、そもそもこの列島の成り立ちを見れば、数万年前の旧石器時代から、朝鮮半島やサハリン経由で、あるいは大陸から日本海を越えて、様々な文化や技術を持つ関係者がやって来たのは考古学や遺伝子解析でほぼ解明されている。紀元前10世紀前後には、半島から北九州に渡来した人々によって水田稲作を伴う弥生文化が伝えられ、それから紀元7世紀までの1千数百年の間、人々が半島や大陸から入れ替わり立ち替わり渡ってきた。
なので、鎌足が、列島にやって来て権力を握った初めての外国人でないのは自明だ。そのほかにも、伝説の武内宿祢、継体天皇、その子孫の厩戸皇子、蘇我氏たちも渡来人だったとした方がつじつまが合うという説、さらに、天智は百済人、天武は新羅人で、7世紀の天武(大海人皇子)の壬申の乱とは、半島で滅亡した百済の残党を討ち取るために、北九州の宗方氏の力を借りた新羅勢力が列島に侵入した事件だったといった臆測がひそかに飛びかっていることも、私はよく知っている。
つまり、7世紀のいわゆる大化の改新や壬申の乱が起きたころまでは、この列島内に対外的に自立した安定政権は形成されていなかったのだ。
ところで、こんなマニアックな世界にのめり込むと、普通の生活の場に帰って来られなくなる恐れを感じたので、先週、4冊の本を買った。「荷風追想」(岩波文庫)、「中華の成立」(岩波新書)、「まぼろしの小さい犬」(ピアス著、岩波少年文庫)、「南の島のよくカニ食う旧石器人」(藤田佑樹著、岩波科学ライブラリー)。写真を見たら岩波の本ばかり。もう定量だと思いながらも、また列島の古代史関係の本を1冊入れてしまった。この本はおもしろいらしい。(2020.1.21)