《四歳のころの はな》
はな は三歳のころからわずか二年間だけ、太平洋の岸辺の小さな町に住んだことがある。平地は狭く、強風が来たら海へ転げ落ちそうなところだった。二年間はほんとうにあっという間に過ぎた。環境にやっとなじんで、これから深く森に潜行して鹿狩りでも楽しもうと思ったのにまた引っ越しだ。
その町に住み始めた年の秋、ふと気がついた。はな の喉から胸にかけて、ダラダラとよだれ掛けのように伸びる白い毛が、すっきりカットされている。これから長い冬を迎えるというのに、防寒にならないニャン。
その年の冬になっても雪はどこにも見当たらなかった、窓から見える落葉樹の小枝付近に小鳥が飛びかい、アパートの煙突の蓋の真上には、カモメ(あるいはウミネコか)がカラスを蹴散らして鎮座していた。ここがほんとうに北海道? と首をかしげるくらい日差しが強く、家に中にいると、夏の時期より暖かく感じた。
ところが、年を越し春が来ると外の様子が一変した。海の方から綿飴みたいな濃い霧が、ほとんど毎日、ボヤボヤ押し寄せてきた。その霧は寒気もいっしょに連れてきた。鳥たちは羽があるから山の方へすぐ移動したが、ネコとヒトとウマは家や柵の中で、鬱屈した日々をじっと耐えなければならなかった。
すると、はな の毛並みにまた異変が起きた。例のよだれ掛けが少しずつ伸び始め、夏になるころには全身すっかり冬毛になった。その土地の生き物の多くは、季節の移り変わりを勘違いしていると思う。父さんだって、その年の夏から帽子をかぶるようになった。えっ、意味が違う?
今の家に住んでからも、はな の毛並みの逆転現象は数年続いたが、いつの間にか元通りになった。(2016.11.22)
はな は三歳のころからわずか二年間だけ、太平洋の岸辺の小さな町に住んだことがある。平地は狭く、強風が来たら海へ転げ落ちそうなところだった。二年間はほんとうにあっという間に過ぎた。環境にやっとなじんで、これから深く森に潜行して鹿狩りでも楽しもうと思ったのにまた引っ越しだ。
その町に住み始めた年の秋、ふと気がついた。はな の喉から胸にかけて、ダラダラとよだれ掛けのように伸びる白い毛が、すっきりカットされている。これから長い冬を迎えるというのに、防寒にならないニャン。
その年の冬になっても雪はどこにも見当たらなかった、窓から見える落葉樹の小枝付近に小鳥が飛びかい、アパートの煙突の蓋の真上には、カモメ(あるいはウミネコか)がカラスを蹴散らして鎮座していた。ここがほんとうに北海道? と首をかしげるくらい日差しが強く、家に中にいると、夏の時期より暖かく感じた。
ところが、年を越し春が来ると外の様子が一変した。海の方から綿飴みたいな濃い霧が、ほとんど毎日、ボヤボヤ押し寄せてきた。その霧は寒気もいっしょに連れてきた。鳥たちは羽があるから山の方へすぐ移動したが、ネコとヒトとウマは家や柵の中で、鬱屈した日々をじっと耐えなければならなかった。
すると、はな の毛並みにまた異変が起きた。例のよだれ掛けが少しずつ伸び始め、夏になるころには全身すっかり冬毛になった。その土地の生き物の多くは、季節の移り変わりを勘違いしていると思う。父さんだって、その年の夏から帽子をかぶるようになった。えっ、意味が違う?
今の家に住んでからも、はな の毛並みの逆転現象は数年続いたが、いつの間にか元通りになった。(2016.11.22)