黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

はなの毛並み

2016年11月22日 14時18分56秒 | ファンタジー
《四歳のころの はな》

 はな は三歳のころからわずか二年間だけ、太平洋の岸辺の小さな町に住んだことがある。平地は狭く、強風が来たら海へ転げ落ちそうなところだった。二年間はほんとうにあっという間に過ぎた。環境にやっとなじんで、これから深く森に潜行して鹿狩りでも楽しもうと思ったのにまた引っ越しだ。
 その町に住み始めた年の秋、ふと気がついた。はな の喉から胸にかけて、ダラダラとよだれ掛けのように伸びる白い毛が、すっきりカットされている。これから長い冬を迎えるというのに、防寒にならないニャン。
 その年の冬になっても雪はどこにも見当たらなかった、窓から見える落葉樹の小枝付近に小鳥が飛びかい、アパートの煙突の蓋の真上には、カモメ(あるいはウミネコか)がカラスを蹴散らして鎮座していた。ここがほんとうに北海道? と首をかしげるくらい日差しが強く、家に中にいると、夏の時期より暖かく感じた。
 ところが、年を越し春が来ると外の様子が一変した。海の方から綿飴みたいな濃い霧が、ほとんど毎日、ボヤボヤ押し寄せてきた。その霧は寒気もいっしょに連れてきた。鳥たちは羽があるから山の方へすぐ移動したが、ネコとヒトとウマは家や柵の中で、鬱屈した日々をじっと耐えなければならなかった。
 すると、はな の毛並みにまた異変が起きた。例のよだれ掛けが少しずつ伸び始め、夏になるころには全身すっかり冬毛になった。その土地の生き物の多くは、季節の移り変わりを勘違いしていると思う。父さんだって、その年の夏から帽子をかぶるようになった。えっ、意味が違う?
 今の家に住んでからも、はな の毛並みの逆転現象は数年続いたが、いつの間にか元通りになった。(2016.11.22)
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ネコ国の時代

2016年11月21日 11時46分49秒 | ファンタジー

 ヒトは、一般に自分の命の残年数には鈍感だ。なのに、はな が十二歳半にもなったのを思い出すたび、今さらながら時の流れの速さを肌身に感じて少し気持ちが落ち込む。はな は、自身の命に関しどう思っているのだろうか。死の気配といったものを想像することができるのだろうか。
 実は今、はな のラグビーチームの姫子は、どんどん体重を減らし弱ってきた。もうゲームに出られる状態ではない。歳は十七歳を超えたので、ヒトなら八十歳半ばにもなる。お知らせしなかったが、いっしょに暮らしていた大御所のドンは、今夏亡くなった。二十歳だった。(二匹の写真は、本年五月の「ネコっ子一匹」に掲載)
 これでチームは はな だけになり、ラグビーチームの看板をどうしようか思案中。はな としては、今、注目浴びている卓球か、これから伸びしろのあるスカッシュボールか、それとも相撲部屋にかけ替えようか(ぴったりすぎる?)と迷っているようだ。
 ところで、つい最近、ネコの寿命を決定する大きな要因の腎臓病を克服する薬が、マウスから作られたというニュースがあった。五年ほどで臨床試験に着手できるとのこと。驚くなかれ! これにより、ネコの平均寿命はおよそ二十五歳になるという。ネコ国が世界の趨勢を左右する時代が到来するのも遠くないだろう。(2016.11.21)
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懐かしきソロ

2016年11月18日 16時39分50秒 | ファンタジー

 つい先日、ロバート・ボーンの逝去の報を聞いた。
 ロバート・ボーンは、私が中学のころ始まったアメリカのテレビ映画「0011ナポレオン・ソロ」の主役を演じた米俳優。国際機関アンクルのエージェント仲間イリヤ・クリアキン役のデビッド・マッカラムともども大いに人気を博した。そのころ西欧のスパイアクション物では007などの劇場映画がヒットしていたものの、007は成人用だったのか、映画を見に行った記憶はない。なので、テレビ映画に映る町並みやスパイが乗る車などのシチュエーションは新鮮で刺激的だった。この番組を見ないと、翌日のクラスでの話について行けないと父親からチャンネルを奪い取ったことまでちゃんと覚えている。
 最近、流行っているパイナッポー・アッポーペンの人気は大したものらしいが、ソロたちがノック式のペンシル型衛星電話で「こちら〇〇」と話を切り出す場面はひときわ印象的で、このフレーズは未だに耳の奥に残っている。この種の残響フレーズとして、ピーター・グレイブス主演のスパイ大作戦「おはようフェルプス君」や、コマーシャルの「バヤリースだよ」に並ぶとも劣らない。 
 ボーンと言えば思い出されるのはスティーブ・マックイーン。二人が登場する映画(といってもいつも主役はマックイーン)では、マックイーンの鮮烈な個性に圧倒されて、ボーンの印象はペラペラに薄い。当たり役のソロも、イリヤに人気を奪われる始末。何だかかわいそうな気がするが、つい最近まで現役でテレビのシリーズ物に出ていたという。彼は再三、悪役を演じている。実は嫌われ役が似合ったので息の長い俳優人生を送ることができたのかもしれない。学識も豊かで、政治家になりたいと言っているのを聞いた覚えがある。八十三歳、ご冥福をお祈りする。(2016.11.18)
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じっと手を見る

2016年11月16日 11時58分56秒 | ファンタジー

 ヒトの手なら、手首のところでぐるりと回転させてじっと手を見ることができるが、ネコの場合、手のひらを自分の顔に向けるのは、肉球をなめて掃除するときくらい。なので、ネコは、働けど働けど楽にならない生活を嘆くような感傷にふけることはない。手を見る暇があったら、せっせと食い物を探すかねだるかする強靱な生き方に、私もあやかりたい。
 ところで、この前の日曜の午後、前日の慣れない冬囲いの疲れからか、急な体のだるさと悪寒に襲われソファーに倒れ込んだ。ちょっとだけと思った休憩が三時間もの長時間に及び、おまけに寝起きに変な夢を見た。
 夢とはこんな感じだった。
 数人して、職場の車で集会所のような雰囲気の簡素な建物に乗り着ける。建物の中では、かなり大勢の男たちが宴会をやっている。席に着き飲食を始めたが、周囲に知った顔はない。ちょっと離れたところに昔の職場の数名の顔がチラッと見えた気がしたが、すぐ見失ってしまう。急に、向かいに座った男が私に向かって、そこはお前の席ではないから別の席に行け、と言う。しぶしぶ席を立つ。その男は、私が手をつけた料理に目をやって、空いている席の料理と交換しなきゃならないな、と渋い顔をする。寸分の隙もない座卓の周りをうろうろするが、どこにも知った顔も席もない。私は、ふてくされて部屋の隅に寝転んでいるうちに眠ってしまう。目が覚めたとき誰もいない。どうやって帰ろうか帰れるのだろうか、とものすごい寂しさに襲われる。すると、夢の場面が切り替わり、私は見知らぬ家に帰り着いている。狭い玄関から、見覚えのある人がテーブルに向かう後ろ姿が見える。はなの気配はしない。私はそれ以上、中に入れない。
 そのときソファーの上で夢から覚めた。体から汗が吹き出している。汗を拭く余裕もなく居間に急ぐと、家族はそろってだらだらしていた。はなの頭や耳を黙ってなでると、彼女は微笑み返してきて、私の手をやさしくなめた。(2016.11.16)

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人気の大喜利 ネコの行進

2016年11月11日 17時28分25秒 | ファンタジー

 gooの「人気の大喜利」に、新雪の中、朽ち果てたサイロの脇の小道をトボトボと等間隔開けて歩くネコたちの写真が載った。七匹もいる。ネコなので、餌でつってはいないだろう。いったい彼らはどこへ行こうとしているのだろうか。先頭の若そうなネコが、たった今、立ち止まったように見える。カメラを向けた人に気づいたためか。
 彼らの行進は、いかにも静かで、何となくもの悲しく感じられる。住処を逐われた? TPPのせいでみんな離農したので、彼らも移住を余儀なくされた? あるいは、托鉢か?
 ところで、サイロの用途廃止手続きは終わっているのだろうか。使わないものでも放っておくと固定資産税がかかってしまう。(2016.11.11)
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有識者会議

2016年11月09日 17時26分34秒 | ファンタジー

 憲法第七条には、内閣の助言と承認により、国民のために行われる天皇の国事行為が列挙されている。一例を挙げれば、
  憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること
  国会を召集すること
  外国の大使及び公使を接受すること
  儀式を行うこと など。
 天皇の生前退位に関する先日の有識者会議において、宮内庁の陳述では、象徴天皇としての公的行為は、七条にあるもの以外に「特段の基準などはない」という。有識者からは「公的行為は象徴天皇としてどこまで必要なのかということも専門家に聞いてみたい」との意見が出たそうだ。
 ということは、象徴天皇とはどのような位置付けにあるのか、具体的に何を行うのか、国の機関自体が理解しないまま、この七十年をいたずらに過ごしたということなのだ。天皇お一人にのみ、その役割を背負わせてきた責任は、もちろん宮内庁だけにあるのではない。象徴なんて自分に関係ないと問題にしてこなかった政治家や有識者やその他国民もその責めを免れない。
 国内の災害等で避難した国民の慰問や、自他国を問わない戦没者の慰霊など、今上天皇がやってこられた憲法の定めのない公的行為は枚挙にいとまがないほど。ご自身が象徴天皇としてのお立場で、手探りでやって来られたということだろう。内閣は仕方なくそれを追認しただけ。
 今上天皇がテレビで生前退位を述べられたのは、憲法違反を犯した恐れがある、とする有識者がいる。前述のとおり、憲法学者などは、自身は憲法違反を犯してはいないと思っているだろうが、実は、憲法の精神をなにひとつ解き明かし、実現しようとしない、いわゆる不作為による犯罪行為をしたことになる。自己正当化している場合ではない。
 旧憲法で、天皇は「万世一系(ばんせいいっけい)で、神聖(しんせい)にして侵すべからず。国の元首にして統治権を総攬(そうらん)する。」とされている。新憲法における象徴天皇の位置付けとの落差は、天と地より大きいかもしれない。
 つまり、象徴天皇の行動を起こすことは、旧憲法の天皇を払拭して、新たな憲法の精神を体現することにつながるのだ。主権を掌握する戦前の天皇には戻らない、ましてや現人神などと祭り上げられた天皇像を演じることを二度とくり返してはならない、という固い決意の表明だと推察せざるをえない。
 時代の推移とともに、象徴の意がおぼろげになるのだとしたら、天皇の象徴としての意味と行為を明文化した方がいいと思う。もしも摂政を置くとすればなおのこと。しかし、現政権や日本国民にそれができるだろうか。(2016.11.9)

 
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同窓会 上達しない技能

2016年11月07日 10時40分29秒 | ファンタジー

 ところで、温泉嫌いの芭蕉が奥のほそ道の旅で、旧暦の七月末から八月にかけて、山中温泉の宿に八泊もの長逗留をしたという言い伝えがある。一方で、弟子の曾良はここ山中で腹痛が酷くなりリタイアしている。

「行行(ゆきゆき)て たふれ伏(ふす)とも 萩の原」 曾良
「今日よりは 書付消さん 笠の露」 芭蕉

 芭蕉が詠んだ句にある「書付(かきつけ)」とは、笠に書かれた「同行二人」という文字のことで、「笠の露」は曾良への哀惜の念にほかならないという。曾良の病状が心配で、その上一人置かれる不安もあって、涙を流さんばかり別れがたければ、慣れない温泉につかっていないで、町の医者がいるところまで同行した方がよかったものを、と思うのだが。
 つまるところ、曾良の腹痛は芭蕉にかまっていられないくらいよほどひどかった? でも旅ができるくらいの症状だった? 
 芭蕉は一人(従者はいただろうが)、山中温泉を発って小松に引き返し、どこかの宿に二泊してから大聖寺の知り合いの寺に向かった。大聖寺の寺に着くと、前日、そこに曾良が泊まったという。なので、曾良は山中からまっすぐ大聖寺へ向かったのではなかった? どこかで療養していたのだろうか。詮索好きの私としては、ほんとうは、曾良は知られたくない急ぎの用事ができたので、モタモタしている芭蕉を置き去りにし別行動をとったと思えてならない。つまり曾良の腹痛は偽装?
 これは根も葉もない空言ではないと私は思っている。加賀藩第三代の子二人が富山と大聖寺の支藩に封じられたのは一六三九年。加賀藩は徳川と仲が良かったと言うが、そのころは外様大名の領地替えなどの風当たりが強く吹き荒れていた。支藩を作ったのも大藩の生き残り策だったと考えられなくはない。
 大聖寺藩は一六五五年ころ、藩内の産業育成のため、九州の有田から作陶技術を導入し、山中温泉の奥に窯を開いた。こうして九谷焼が生まれた。この古九谷焼の窯跡は、現在も発掘調査が行われていて、近日中に、古九谷焼が有田の窯で焼かれたという説、隠れキリシタンの秘匿説などの論争にも決着がつくだろう。この窯は、芭蕉が山中を訪れた一六八九年の十数年後、突然廃窯になった。窯の活動期間はわずか五十年ほどとされている。
 同窓会は盛会裡に終わった。というか午前三時まで終わらなかった。何かが祟ったのだろう。北海道に帰った翌日から喉の痛みと咳に取りつかれて、十日間くらいきわめて体調がすぐれなかった。
 旅で撮った写真整理はさらに困難を極めた。なにしろ私のカメラワークにはセンスというものが感じられない。すぐ近くのものを撮るなら大して気にならないが、遠くの事象を撮ると、人や構造物が威容に大きく写っていたり、必要な物がなく無用な物が写っていたりで、フレームに収まった景色のバランスが悪いというか、つまり何ともつまらない写真になってしまうのだ。カメラを手にして五十年、またひとつ上達しない技能が増えた。(2016.11.7)
<追伸>
 山中温泉に伝わる「山中節」については、詳細に調査を行った上で後日報告する。
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同窓会 なにもかも古い

2016年11月06日 15時24分34秒 | ファンタジー

 死ぬは定めよ、とはもっともだが、私としては死に急ぐ気はまったくないので、東京の葬儀もそこそこに、還暦を過ぎたころから毎年やるようになった全国持ち回りの大学の同窓会に出席すべく、東京駅で北陸新幹線に乗って、一路金沢へ向かった。金沢の夜は、紅葉前の十月下旬なのに風は冷たく身にしみた。風邪の引き始めだったか。
 翌日は市内観光。西茶屋経由で兼六園を隅々まで探索。伝統工芸博物館も見応えあり。東茶屋の蕎麦屋でざる蕎麦を食す。つゆが素麺出汁のように薄いのでとまどった。浅野川付近の主計(かずえ)町の料亭や茶屋が並んでいる付近をそぞろ歩きしているうちに、二十年以上前、この一角で鯛料理を味わったのをはっきり思い出した。鯛は美味かったが腹が減ってなかったので食い残した苦い記憶。今回は昼過ぎなので、茶屋造りの喫茶店に入り、不思議な香りのコーヒーを飲んだ。味はさらに変わっていた。マスターは七十歳がらみの粋な雰囲気の人。ほうじ茶と和菓子付きで五百円とは廉価。
 夕方、JRで加賀温泉駅到着。宿の送迎バスに乗って片山津温泉へ。古く小さな宿に着いた。部屋食なので、入浴、食事、布団敷き時間がピタピタ決められる。朝食の時間までも。仲居さんは東北生まれの気さくな人だった。
 翌日は、山中温泉在住で今回のしきり役である同窓生が、車で近郊を案内してくれた。山中温泉の樹齢一千三百年の大杉を見て、大聖寺川の上流の村々を飲みこんだダム湖に沿って、古九谷焼の窯跡へ。その場所は予想を超えて山のかなたの遠くにあった。軽い気持ちで頼んだことを後悔したが、今さら引き返すわけにもいかない。狭い道には人や車の影はなく、幸いに熊にも出くわさなかった。
 峠を越え反対側の山の斜面を流れ下る川沿いの道に入ると、比較的見晴らしが良くなった。両側には、赤瓦屋根に煙抜きの小さな屋根をかぶせた珍しい家々が見えた。あっという間に下り、平地の山代温泉に到着。魯山人の修行した旅館前を通り、再び山中温泉に入り、同窓会の会場に着いた。その旅館は、八百年前の開湯当時から受け継がれた名湯だという。山中温泉はなにもかも、仲居さんも由緒があって古い。深い谷底を走る鶴仙渓の石畳の方が多少新しい。そのかわり、私が住んでいる土地と比べると言いしれぬ味わいがある。(2016.11.6)(続く)

 
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死すべきは自分一人では…

2016年11月01日 10時45分20秒 | ファンタジー

 姻族を表す義の文字で始まる続柄は、文章の中ならよくお目にかかるが、言葉としてはあまり耳になじまない。なので、義父母を紹介するときは、親子関係がどんなに疎遠なのであっても、夫や妻の父母と、くだけた親しみある言い方をすると差しさわりなく聞こえる。
 義祖父母や義曾祖父母の場合なら、説明する側がありったけの語彙を弄すればするほど、言う側も聞く側もこんがらかってしまうから、工夫をこらした説明文は省略すべきだ。頑張ると、かえって関係性に疑問を持たれかねない。もしも、どうしても説明しろと食い下がられたら、口を閉じたまま系図のポンチ絵を大ざっぱに描くのがいい。
 話は変わるが、先日、叔母の夫君、九十歳の義叔父が亡くなった。最後にお会いしたのはちょうど十年前の父の葬儀だったと思う。昨年の卒寿のお祝いのとき撮ったという祭壇の写真の中で、義叔父の笑顔が若々しかった。写真を眺めているうち、ふと、こんなに若くても死がやって来るものなのかという気分に襲われた。
 いや少し違うような気が。写真の義叔父の笑顔と私の顔のイメージを比較して、大した年の差が感じられない、という自分の死に対する恐れのような感覚だったかもしれない。考えてみると当たり前だが、この十年で自分も明らかに変化している。自分も確実に死に近づいている、といったような気分だったろうか。そう思ううち、笑顔の写真の中に入り込んでしまいそうな、これまでになかった感慨にとらわれたのだ。
「死すべき定め」(みすず書房)という、きわめて当たり前の冷たいネーミングの本が出た。でも内容は、「豊かに死ぬ」ために必要なこととは何か、が論じられているという。それなら題名は「豊かな死」とか「死すべきは自分一人ではない」とか、優しい文言にしてほしかった。気安めか。(2016.11.1)
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