はなは、名前を呼ばれると必ず「ニャンじゃ」と返事をする律儀なネコだ。もちろん相手は父しゃんと母しゃんにだけ。
昔、しゃべる馬のテレビ映画があったが、彼もしゃべった相手はたった一人。動物とおしゃべりできると告白するヒトは、古今東西にかなりの数がいるので珍しくないが、生き物全般に向けて意味が通じる言葉を発声したのは、歴史上、後にも先にも犬のドン松五郎だけ。他には聞かない。
はなは、けっこう忍耐強い。立て続け10回くらいなら、ニャンじゃをニャンとか返してくれる。ちょっとふざけて、ほかのネコの名前「ユキ」「タロウ」などと呼んでみたらどうなのか。それにもみごとなお返事があった。
はなは、幼いころからおしゃべりで話しかけに敏感な性格なのは間違いないが、そうではなく、実は、たくさんの名前を持つネコなのかもしれない。というのも、はなは、一日中「はな」ではない。ゴロゴロしていても、次の瞬間、何の脈絡もなくバクッと噛みついてくる。まさに猫格変じて別ネコになる。でも、はなは噛んだら必ず、ごめんねと手をなめてくれる。この猫変ぶりがまたかわいい。
君子は誤りを犯したなら、すみやかに自ら豹変するものだと言う。つまり、はなは君子ネコだ。この国の政治家のことではないが、豹変できない君子は誰からも見向きされなくなる。(2018.3.21)