こんばんは
今日はボスチニブのウェブ講演会があり、娘のお風呂の時間などに戻って来れなさそうだったので、妻に実家に戻ってもらいました。おかげで少し記事を書く時間ができました。
少し気になる記事があります。僕らも無縁ではありませんので。
凍結精子失い、妻は泣き崩れた 病院が無断で保存中止
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150520-00000007-asahi-soci
朝日新聞デジタル 5月20日(水)5時31分配信
不妊治療を手がけていた大阪市立総合医療センターで、患者の知らないうちに精子の凍結保存が打ち切られていた。「絶対に子どもがほしい」。そう願っていた妻は、夫からその事実を知らされて、泣き崩れた。
【写真】凍結精子の保管容器(右)。白い容器に入った液体窒素を注ぎ入れて凍結保存していた=大阪市立総合医療センター提供
大阪府池田市の会社員、北村哲也さん(30)は2003年、同病院で血液の病気の骨髄異形成症候群と診断された。当時は18歳。治療のために放射線治療を受け、抗がん剤を服用することになった。副作用で精子のもとになる細胞がなくなる恐れがあったため、両親や医師の勧めで03年12月に精子を凍結保存した。保管費用は無償だった。
9年後の12年12月、交際していた現在の妻(28)と同病院を訪れた。北村さんは「子どもが自分と同じ病気になるかもしれない」と子どもについては消極的だったが、「女性に生まれた以上、絶対に子どもが欲しい」と説得され、「父親になりたい」と考えるようになっていた。
診察室では、産科部長から「凍結精子は保管されています」と説明を受けた。ただ、「専門の医師が異動したので、病院としては不妊治療ができなくなりました。できるだけ早く、別の病院に移管してほしい」と告げられたという。
「すぐに移管先を見つけるのは無理かもしれないので、それまで管理してもらえますか」と尋ねると、産科部長は「勝手に破棄することは100%ない」と言ったという。この点について病院側は否定している。産科部長によると、13年3月末までに移すよう求めた上で、「期限が来たらピタッとやめるわけじゃない、とは言った」という。
「結婚するまで、置かせてもらおう」。そう話した2人は、今年1月に結婚した。凍結精子を移せるクリニックを見つけ、4月に同病院に問い合わせた。翌日、職員から電話があった。「移管をお願いしていたが返事がなく、管理が行き届かない状況になった。使用に関して医学的には担保できません」
「あかんて」。北村さんが事情を伝えると、妻は泣き崩れた。「あかんてどういう意味? 何でなん?」
4月25日、北村さんは副院長をはじめ医師4人と職員1人に面会した。電子カルテには「12年度中(13年3月末まで)の移管をお願いした」と書かれていた。ただ、期限を過ぎれば廃棄するとの記載はなく、書面による説明や同意書の作成記録もなかった。
医師たちは「連絡がなかった。病院に責任はない」と謝罪にも応じなかった。北村さんは「大きな病院でちゃんと管理してもらえると信じていた」と話し、病院側の謝罪を求めている。
凍結精子を移す予定だったクリニックの診断で、北村さんの今の精子は動いていないことがわかっている。今後、手術で精巣を開き、精子のもとになる細胞が残っているかを確かめる予定だ。精子が見つかる可能性は30%前後だという。(藤田遼)
朝日新聞社
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まず、精子保存されていたものが、使えるかどうかわからなくなったというのは非常に残念であり、それについて強く怒りや悲しみを感じられる患者さんの気持ちは理解できることだと思います。しかし、これを病院側の責任と言えるかと言われると、言われたことを行っていない患者さんの側に責任があると思われます。
恐らく、若年のMDSに対して放射線療法を使用したということは(精子保存していることでもわかりますが)、同種移植を行ったということでよいと思います。僕たちも精子保存を他院に依頼してやってもらいます。
今回は移植を行った後、9年後に病院に行った際に「管理できないから移管するように」いっているわけです。管理する人がいなくなっているので、保証ができないといわれているのにほうっておくことがおかしいように思います。
「大きな病院だから管理してもらえると思った」のは申し訳ありませんが、患者さん個人が思っただけであり、患者さんが思っていたことを実行できない場合に病院や医師に責任をとれと言われるのは筋が違うように思います。
実は血液内科領域でも「保管」に気を使っていることがあります。今までは「自家末梢血幹細胞移植(自分の造血幹細胞を保管して、大量抗癌剤治療の後の回復に使用する)」の件数はそれほど多くありませんでしたが、骨髄腫の患者さんに対して「適応患者」が増えただけでなく、複数回移植(悪性リンパ腫では行いません)を行ったりしています。そうするとどうなるかというと保管する場所がなくなってきます(60代までの骨髄腫の患者さんはほぼ全例、幹細胞採取して保管しています)。
そうすると「古いもの」から本来の保管場所から、別の場所にうつさざるを得なくなったりします。もちろん、亡くなった患者さんや悪性リンパ腫では複数回移植は普通はしませんので(だから通常使い切りますが)、こういった患者さんのものは破棄されていくと思います。
ここらへんも微妙なところで「輸血学会」が出しているガイドラインには「1年をめどに破棄する」ようなことが書かれていますが、1年で捨てていては骨髄腫の複数回移植はできません。何かの時に使用したいから保管しておきます。それでパンクしていきます。
ついでに保管するのはタダではありません。その費用が必要ですし、管理する人はきちんと管理していく必要がありますから気も使いますよね。
今回、「責任者がいなくなった」というのは「責任もって管理する人がいない」という事実を言っています。産婦人科の先生はかなり忙しいと思います。自分の正面の仕事で手いっぱいに近いところに、自分の正面の仕事でないことを常に頭に入れておくのは難しいだろうと思います。
それ故、この記事には「何が言いたいのか」という不快な気持ちの方が先に出てきます。
もちろん、患者さんの精子が使えなくなったかもしれないというのは残念なことです。どうにかなってほしいと思います。
それでも、「この記事を書いたことで何を医療界に求めているのか、朝日新聞は・・・」と思うところです。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。